卒業研究要旨(2010年度)

日本・韓国・台湾の住生活の比較 〜ドラマから見る家族空間の違い〜

2010年度卒業研究 空間デザイン研究室 高尾由花

1.はじめに

 国が違えば住宅や生活習慣が異なる。伝統的な住まいについての研究は行われているが、現代の生活は洋風化し、一見大きな違いはないように見える。韓国や台湾のドラマを観て住まいの違いが気になり、住宅の国際比較に興味を持った。ドラマに描かれる住まいの姿やそこで営まれる家族の生活に注目する。

2.方法

 共通の原作に基づき日本・韓国・台湾でそれぞれ制作されたドラマを調査対象とする。表1のドラマを対象として、家で生活している場面を抽出した他、分かる範囲で住宅の間取りを採取した。

3.結果

 部屋ごとの場面数の割合を見てみると、国ごとに大きな差は見られないが、日本は自室の割合が多く、韓国はリビングの割合が多い。台湾は自室とリビングが同じくらいの割合で、他国の中間であった。(図1)

3-1自室の使われ方

 自室に見られる行為は、考え事や勉強など1人で行う行為や作業が中心であることは各国共通である。本人以外が立ち入る場面は日本のドラマでは極めて少なく、韓国ではやや見られた。日本の個室は、家族でも入ることが少ないプライベートな空間だといえる。台湾では比較的気軽に家族が立ち入ってコミュニケーションをしている場面があり、日本や韓国に比べ、個人の空間としての意味は希薄なのかもしれない。

3-2 家族室(リビング)の使われ方

 日本のリビングはほとんどが、食事や家族会議・会話など家族間のコミュニケーションの場であった。韓国では、キムチづくりや内職など、家族揃っての生活行為がリビングで行われていた。パソコンや電話などの行為も、リビングで家族一緒に行われていた。台湾の特徴は、外の人を招く接客行為が最も多く見られたことであり、住まいが外に開かれている様子が伺えた。

3-3間取りの特徴

 リビングを通って個室に行く間取りが、日本では9軒中3軒と少なく、逆に韓国と台湾は、それぞれ15軒中11軒、8軒中5軒と多かった。韓国と台湾がリビング中心の間取りであるのに対し、日本の間取りは個室の孤立性が強い事が伺えた。

4.考察、まとめ

 ドラマから見えてきた各国の住宅の特徴をまとめる。(図2)日本では、個室の独立性が強く家族はあまり立ち入らない。リビングは生活空間というよりも、家族とコミュニケーションの為に出向く空間と言える。これに対し韓国では、リビングで家族が一緒に様々なことを行うことが生活の基本的な流れであり、個室は一人になりたい時など必要に応じて出向く空間であった。台湾は、最も住まい自体が外部に開かれており、頻繁に家族以外の人とも関わりがあった。個室とリビングとの境界も薄く、個室が個人の空間という意識はそれほど高くないことが伺える。韓国と台湾の伝統的な住宅は中庭を囲む形式が基本であった。現代でも、この構成が残される形で中庭がリビングに変化し、家族が集まりやすくなっていると考えられる。日本は戦後のプライバシー意識の高まりによって、部屋を廊下で繋ぎ個室が確立され、より個室がプライベートな空間になっていると考えられる。日本は他の国と比べ個々の生活が確立されすぎているのではないだろうか。個々の生活も大切だが、家族で住まうことの大切さとしてコミュニケーションをとる生活が増えることが良いと考える。

参考文献「住まいに生きる」佐藤浩司編 学芸出版社

(表1)場面数と間取り数
  ※対象としたのは家族で住んでいる庶民の住宅。間取りは他のドラマからも抽出した。
(図1)場面数の比較(グラフ)
(図2)リビングと個室の関係(日本・韓国・台湾の比較)



2003-2011, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2011-01-28更新