卒業研究要旨(2013年度)

まじわる 〜高齢者から始まる街〜

2013年度卒業研究 空間デザイン研究室 安斎映美

1.研究目的

 福島県東南部に位置するいわき市は観光客や震災の影響による避難者や観光客などで人が行き交っている。観光地が多く置かれる最寄り駅湯本駅には、商店街が存在。しかし殺伐としており、地元ならではの深い交流が生まれる場所であるべき商店街が住人・観光客・避難者の居場所となっていない。

 ここに閉ざされた空間とされる高齢者の暮らしや居場所を新たに複合させることで新たな街の活性を図ることはできないかと考える。近年増加する孤独死、不安が残る高齢者の一人暮らし、退職後の孤立…。セカンドライフを人が行き交う駅前に置き、同年代、街の住人、観光客との交流を商店を通じて築き、街の活性へと繋げていく。そして終の棲家、終の街へとなる。

 新しい高齢者の生活の提案により、高齢者を見守り見守られ高齢者から人の交流が交わり合い、活気溢れた街を目指す。駅を出て高齢者の姿が見え、高齢者から始まる街へ。

2.対象敷地概要

対象敷地:福島県いわき市 湯本駅前商店街
敷地面積:7500m2程度

 湯本駅を降りて初めて見える場所であり駅前の顔となるが、空き店舗や駐車場が目立ち、観光地の駅とは言えず、観光地としての雰囲気が見当たらない。駅前の居場所もなく利用者は駅のホームなどで時間を潰す。周辺は住宅地が広がっているが主に車での移動であり、近隣との接点が生まれてこない。駅前は完全に学生や観光客の利用するだけの場所となっている。

3.計画提案

 駅前の新たな顔を創り、対象敷地の道を挟んだ3ヶ所に双方から存在を感じさせる広場や凹凸の壁、入り組んだ空間・道などから繋がりを持たせ、ここから街全体へ動線を溶け込ませていく。ここでの交流から居場所ができることにより、駅を利用するためだけに向かう駅前から、居場所を求め向かう駅前とさせる。

・高齢者の生きがい

 グループホーム9人程度のユニットや3人程度のシェアハウスのようなユニットを置き、さまざまな介護度や生活スタイルを持つ高齢者それぞれにあった生活を埋め込ませていく。話好きな高齢者の店番や、作業を好む高齢者の作業場や作品展示・販売や教室の営み、農業で体を動かしたい高齢者の畑や販売など、さまざまなコンセプトを持たせたユニットから、それぞれの暮らしを見つけ出していく。介護を必要とする高齢者も同じユニット内に自立した元気な高齢者と住み、日中を居室やリビングで過ごすことなく共に作業をしたり見守ったり、また窓から見える景色から街を見守る役割が生まれていく。また近隣に住む高齢者も定期的に集会を開き、居住のしている高齢者や近隣の高齢者との接点が生まれ、ここでの居場所ができ、定期的に通っていた場所から、毎日のように通う場所へと変化していく。また多くの交流からサークル活動も行われ、小さな劇場で披露したり、趣味を生かした教室を開いたり、新たな趣味が始まったり。高齢者のさまざまな居場所となり、生きがいが1つ2つと増えていく。

・奥へ進みたくなる路地空間

 広い道から狭い道へ、入り組んだ道から広場へ、さまざまな道から奥へ進みたくなる動線計画。奥へ進んで行くと商店、そして高齢者の住まい、もっと奥へ進むと高齢者の生活風景が見えてくる。歩いていくうちに自然と商店を営む高齢者、テーブルを囲んで楽しく作業を行う高齢者、窓から外の風景を見守る高齢者などさまざまな高齢者の生活が目に入る。互いが互いを見守る空間へ。所々にある入り組んだ空間、ここを居場所とする高齢者との交流や、自分の好きな場所を見つけ出すなど自然と敷地内での居場所が生まれていく。毎日過ごす場所、毎日通る場所であるため入り組んだ空間、凹凸がある空間から日々変わった風景が見え、毎日新しい生活が始まる。

・近隣住人や観光客の居場所

 駅前に置かれた高齢者の暮らしから自然と高齢者の視線を感じる。カフェなどオープンな場所から、入り組んだ路地を進んでいくとフリースペースなど開けた場所が存在、ここで自由気ままに過ごす高齢者。始めは間接的な交流がいつの間にか直接的な交流を持っていた。そして気がつくと利用する駅までの動線内に居場所が出来ている。また観光客にとって地元を知り尽くした高齢者と交流が生まれ、さまざまな観光地の情報を受け取り、地元の風土を感じ取り、観光地へ向かっていく。



2003-2014, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2014-02-09更新