卒業研究要旨(2013年度)

大学内における行為・姿勢の考現学的考察 〜学生のいる風景を切り取る〜

2013年度卒業研究 空間デザイン研究室 鈴木恵美子

1.はじめに

 古を考える考古学に対して、現のことを考える考現学という学問がある。民俗学の研究者である今和次郎が1927年に提唱したこの学問は、関東大震災で焼け野原となった東京で立ち上がるバラックのスケッチに始まり、その後の生活学や風俗学、路上観察学に発展した。何気ない日常の場面を詳細な観察スケッチによって時間的・空間的に見直し、そこにある様々な暮らしのかたちを見出した。
 大学は学生生活の拠点であり、それまでの学校よりも行為の自由度は高くなる。同じ時間、同じ空間であってもその使い方は様々であり、同じ行為であってもよくよく見てみると様々なバリエーションがある。
 大学内の様々な場所で、その場を利用する学生たちの時間と空間の使い方を調査する。観察・記録を行うことで、学生の現状を採集し、図録を作成する。

2.方法

 実践女子大学大坂上キャンパスにおいて学生が自由に出入り・利用でき、椅子と机のある場所を対象として学生の過ごし方を観察した。調査は2013年11〜12月にかけて、1〜5限(9:00〜18:00)の一コマごとに表1の各場所で記録を取り、合計543場面を採取した。

3.結果

採取場面を行為・姿勢・場所などで分類し考察した。

(1)行為ごとのバリエーション

 採集したカードを行為別に分類し、バリエーションを整理した。勉強の例を表2に示す。姿勢を見ると、机上が整理されている人は真っ直ぐ座り姿勢が良く、書類や書籍が散乱している人は前傾姿勢で取り組んでおり、熱意や焦りが伝わってきた。プリントを黙読して勉強する人は手帳や鞄、ストール類が机上にあり、余裕すら感じられる。音読して頭に入れようとする人、今にも眠りに入りそうな姿も見られた。

(2)配置のバリエーション

 複数名で過ごす際には行為、荷物の量などの要因によって配置が変わり、勉強や作業の場面では表3のように変わった配置が見られた。桜ホールや食堂では、3〜8人での利用も多く、大人数で和気あいあいと談笑したり課題に励む姿が見られる一方では団体の会議や反省会にも利用され、殺伐とした空気を放っていた。

(3)新たな道具の利用

 スマートフォン利用者の増加に伴い、学内でも時間、場所を選ばず表4のような姿が見られた。他の行為をしつつ操作する「ながらスマホ」や、柱などコンセントの近くに座り充電しながら操作する姿も多く見られた。今回の調査で発見できたガラケー利用者は1名のみであった。一人でも複数で過ごす時でもスマートフォンは常に手元にあることが多く、単に暇つぶしの道具でなく話題の発信源や会話を補助する材料となっていた。

4.考察

 行為別に見ると1日を通して勉強する学生が最も多く、休み時間を友人と話すよりも勉強や課題に費やす学生が多いことがわかった。1・5限は飲食をする学生が最も多く朝晩の食事を学校で済ます学生が多いことが伺えた。3限になると図書館で居眠りをする学生が急増しており、図書館の静けさは勉強への集中力と共に眠りの心地良さも生み出していた。
 日常の何気ない行為にも多様なバリエーションが見られ、それはその人自身の状況や環境との関わりを反映したものと言える。また、その中に今まで気づかなかった独特の風景や新たな道具を用いた風景も見出され、女子大生を取り巻く現状を理解する上での資料になり得るのではないだろうか。

(表1)調査対象地と場面数
(表2)勉強時のバリエーション
(表3)配置のバリエーション
(表4)スマートフォン使用時のバリエーション



2003-2014, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2014-02-09更新