Studies:卒業論文の進め方 2



卒論のかたち

(1)「意見」+「論拠」

 卒論の手法にはいろいろあります。何か実験をするのか、アンケートをするのか、観察をするのか、いろいろと悩んでいくことでしょう。ただ、手法はともかく、論文としての最終的な形は「意見」+「論拠」と考えて下さい。単なる実験レポートと最も異なる点は、単に事実を列挙するのではなく、それらをまとめた上での自分の「意見」を表明することにあります。つまり、何か「自分の言いたいこと」が結論として導き出されることが重要です。

 ただし、最初から最後まで自分の「意見」を述べているだけでは、ただの独りよがりです。いろんな人が見たときに、その「意見」を納得させられるような、裏付けとなる事実を提示する必要があるでしょう。そのような、自分の「意見」に説得力をもたせるためのさまざまな事実のことを「論拠」と言います。論文の場合、こうした「論拠」を示すために、いろんな実験を行ったり、いろんな人にアンケートをとったり、現場に入って調査を行ったりして、自分のオリジナルなデータを作っていくことになるわけです。

(2)「事実」+「考察」

 「論拠」の部分をもう少し詳しくみると、「事実」の提示+その「考察」となります。いわゆるレポートであれば、ここまでで完成と考えてもいいものですが、論文の場合には1で述べたように、最終的には自分自身の「意見」を述べることになります。

 まず、「事実」とは、私たちの世界のなかから拾い上げるさまざまなデータによって示すことが一般的です。実験にしろ、アンケートにしろ、現場調査にしろ、私たちの生活の一面を示すためのデータをとる行為に他なりません。それは、数字という形をとる場合もあれば、画像データの場合もあります。言葉の内容そのものがデータになるかもしれませんし、図面への書き込みという形をとるかもしれません。

 こうしたデータは「事実」を示すことになりますが、それだけでは意味のない事実の羅列になってしまいます。それらのデータを分析し読み解いていくことが、「考察」というプロセスになります。そのデータが、どんな傾向を示しているのか、そこにはどんな意味があるのか、ということを丁寧に解読し、読む人に分かりやすく伝えることが、「考察」です。

(3)全体のかたち

  つまり、何のためにいろいろな調査をしたり分析をしたりするかと言えば、自分の言いたいことがあり(これが問題だ!これは大事だ!ここに注目する必要がある!等々)、その意見に説得力をもたせるための根拠を得るために、調査や実験を行い、それらを分析・考察していくことになるわけです。

 それを踏まえた論文全体のかたちは以下のようになります。

論文のもと=「問い」

(1)自分の視点の確立

 ところで、私たちの世界には、意味のあるデータは無数に、無限に存在します。ある人は歩くスピードに注目するかもしれないし、ある人は表情に注目するかもしれない。ある人は心拍数に注目するかも知れないし、ある人はそのときに来ている服の色に注目するかも知れません。どれもすべて、私たちの世界を示す正しいデータであるとともに、世界の全てを示すデータではありません。論文とは、世界のある一面だけを切り取って分かりやすく提示することでもあります。何に注目するべきか、世界を切り取るための自分だけの「視点」が必要になります。

 ただし、その「視点」とは、始めから自分の中に確固としたものがあるわけではありません。いろんな体験をしたり、さまざまな文章を読んだり、実際の生活の現場に触れたり、そこで感じたことや考えたことを何度も反芻することによって、少しずつ確立されていくものです。そして、ただ漠然と事実を眺めていれば見えてくるというものではなく、いろんな角度から「問い」を発し、その「問い」に対する答えを模索し、現実と照らし合わせながら新たな「問い」を立て直していく、という試行錯誤が不可欠です。

 逆に、そうした自分自身の試行錯誤によって培われた「視点」があれば、どんなテーマに対しても自分の立ち位置(スタンス)を明確にし、自分なりの見方をすることができるようになるでしょう。ある意味で、それは出来上がった論文そのものよりも価値のあることです。

(2)「問い」を立てること

  自分の視点・スタンスが明確ではない論文は、「問い」が十分ではなく、つまり問題を切り取ることができないままにデータを羅列してしまい、最後の自分の意見も不明瞭なものとなってしまいます。それは論文の価値が半減するだけでなく、論文作成のための努力の価値も半減してしまいます。

 「問い」とは、すでにあるはずの答えを求めるものではありません。一つの答えがあるわけではない問題に対して、自分の視点から問題を切り取っていくことです。当たり前のように思われることでも、自分の立ち位置を変えてみると、いろんな「問い」が見えてくるかもしれません。果たして本当に当たり前なのか?正しいと言えるのか?実はそこに問題があるんじゃないか?あるいはそこに価値があるんじゃないか?もっと他にこんな可能性が考えられるんじゃないか?

 そして、この「問い」に対する答えこそが、最終的な自分の意見(結論)になります。良い「問い」を発することができれば、もう論文の半分はできたようなものと言って良いでしょう。とにかく、自分のテーマに関するさまざまな「問い」を、いろんな角度から、いくつでも発することを心がけるようにしてください。また、他の人の「問い」にも耳をすませてください。そこによい「問い」があれば、皆で共有できるかもしれません。


参考文献:山田ズーニー「伝わる・揺さぶる!文章を書く」(PHP新書)



2003-2008, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status:2008-02-20更新