生活環境講座

第6回 日野市役所とのコラボレーション 塚原肇

プロダクトデザイン研究室は「日野市役所・まちおこし庁内プロジェクトチーム」と共同で「日野市のブランド構築の研究」を行なっている。研究は「日野市独自の優れた特産品を開発し広めていくことで東京都日野市を全国にPRし、知名度を上げる、また産学官連帯事業として日野市の活性化を促す」ことを表現している「日野市ブランド」のデザインである。

研究のプロセス

5つのチーム(各チーム2〜3人)を結成し、前期5〜7月は、日野市の現状調査を行い、日野市についての現状と歴史の理解をおこなった。後期10月〜12月にかけて前期の調査をもとに、各チームでブランドデザインを行い、それぞれモックアップを作成した。以下、今回提案したコンセプトデザインを紹介する。

日野市のブランドの提案

・グループA:日野市七福神巡り
日野市は江戸時代より甲州街道の宿場町として栄えた街である。そのため歴史的な寺社が結構多い。昔から日野七福神巡りというのが地元では有名であるが、学生などの若い人達には知られていない。そこでグループAは若い人達でも十分楽しめる「今時の七福神巡り」のシステム提案である。各寺社にはそれぞれの御利益があるが、それを動物と花言葉に関連つけ、お守りの変わりに動物のパッケージに入った花の種を提供する。その花が育って花を咲かせば、祈りが成就するというエコにも通じた提案。

・グループB:カワセミ
日野市の鳥に指定されている「カワセミ」は清流にしか生息できない野鳥である。日野市はこのカワセミを市の象徴とすることで、新宿からわずか45分で、「カワセミが生息できるような自然が楽しめる街」とアピールしている。グループBの提案は、このカワセミをモチーフにデザインを展開し、デジタル処理したところにある。デジタル処理により、日野市のロゴマーク、印刷物やグッズにといろいろなアプリケーションが可能になる。

・グループC:紙
日野市で生産される野菜や果物は多種多様である。グループCはこれらの生産物をベースに紙を染織し、葉書やカードを作成、またそれらをモチーフにした「切手」を作成して販売するという提案である。日野市から全国に発信する「カードと切手セット」を作成する。

・グループD:エコの街 日野
日野市はエコ宣言をしている街である。そのエコをもっと強烈にアピールしようというのがグループDの提案。2007年の卒業製作「オバケノモリ」はエコを題材にした絵本である。主人公はロボットのハロルド、オバケノモリに住むお化け達に物を大切にすることを教わる。今回は実際に「オバケノモリ公園」を作り、そこで物の大切さを子ども達に体験してもらおうという提案。

・グループE:デートスポット 日野発見
日野市は歴史と自然に恵まれた街である。歴史と自然にまつわるお祭りが1年を通して毎月行われている。グループEの提案は「日野の自然と行事」をインターネットで全国に発信しようというもの。また情報誌としての小冊子も計画中。

最後に

世の中には様々な「ブランド」が存在する。モノ社会であった数十年前までは「ブランド」は非常に分かりやすかった。「標章」を表しているだけだったからである。例えば「ルイ・ビトン」や「ベンツ」の類である。これらは商品の差別化のために用いられ、デザインやロゴマークと密接に関係していた。しかし情報化社会となった近年では「ブランド」に違った概念も含まれるようになった。視覚化できないシステムやサービスを含む場合もあるからである。特に地域社会や公共分野で使われる「ブランド」となると話がややこしくなる。ただ単に「特産物」では済まされない。残念ながら、今回の提案もこの壁を越えたとは思っていない。ただ1年を通して少し分かったことは、デザインやロゴマークだけではなく、それら全てを含んだ「アプリケーションのシステム作り」がより重要なのではないかということだ。例えばハードのデザイン(今回の場合はカワセミやハロルドのデザイン)だけではなく、ソフトのデザイン(情報の更新と発信方法)ということが情報化社会ではより重要になってくる。まだまだ前途多難であるが、2009年度もこの課題に挑戦していきたいと考えている。(T. T.)