生活環境講座

第8回 静電気はいやだ! 鎌田佳伸
静電気の話

 あっ 痛っ〜!・・・。ドアノブを掴もうとした時の電撃は嫌なものです。これが静電気のいたずらであることは皆さんもご存じでしょう。

 静電気は、人体への埃の吸着による健康障害、衣服の脱衣時の激しい火花の発生、電撃などの不快さ、さらには精密電子部品の製造時の破壊や火花放電による化学プラント事故、などいろいろな問題を引き起こしています。

 ポリエステル繊維に代表される合成繊維は強くて耐久性があり量産もできるので、天然繊維にとって代わる優れた特性を有する繊維として大いに使用されています。しかしその反面、吸湿性が乏しく電気抵抗も高いため帯電しやすいという「合繊の宿命」と呼ばれる欠点があります。  静電気は冬の乾燥した日、特に湿度が40%以下になると発生しやすくなります。着衣同士や着衣と人体との摩擦,歩行時の床(絨毯)との摩擦などによって人体に静電気が蓄積されることが知られています。歩行時にスカートやランジェリーが足にまとわりつくことは女性が日常的に経験するところで、不快であるばかりでなく、外観上も好ましくありません(図1)。

 このような合成繊維による静電気の発生を防止するためには、水分を付与することが最も簡単な対処方法ですが、ポリエチレングリコールなどの界面活性剤を衣服に塗布する加工や導電性繊維の利用の試みがいろいろと行われております。ここでいう導電性繊維は、金属や金属化合物、カーボンブラックなどの導電性物質を含有する繊維で、被覆型、複合型、単一型、均一型などがあります。

静電気を除去する糸の話

 さて、アクリルやナイロンなどの繊維の表面近傍に染色技術を用いて硫化銅を含浸させた被覆型の導電性繊維にサンダーロン®(日本蚕毛染色製)があります。筆者の研究室では、サンダーロン®を含有する導電性繊維で糸を作成し、その糸の制電性について研究をしています。その研究成果の一部をご紹介します。

1.サンダーロン®繊維の含有率と制電性の関係(図2)

 サンダーロン®繊維とポリエステル繊維をいろいろな割合で組み合わせた導電性糸を作成し、その制電性を調べました。布試料は厚さ0.5mmのウールサージ(幅7.5cm×長さ23cnm)を用いています。その中央に手紬の導電性糸を一本縫い込みました。図2の縦軸は、布のみ(導電性縫糸を用いない)の摩擦帯電圧を基準値1とした無次元帯電圧です。横軸はサンダーロン®繊維の含有率(重量%)で、対数目盛りで表わしています。制電性の閾値はサンダーロン®繊維の含有率が約10wt%のところに存在し、それ以上では変わらない結果となりました。すなわち、サンダーロン®繊維をおよそ約一割含めば制電性は十分であるということになります。したがって、サンダーロン®繊維は着色能力がないのですが、他の9割の繊維を染めることで色を出すことができます。また、サンダーロン®繊維はかなりの高価ですが、一割程度の使用で制電性が得られるので経済的でもあります。なお、この制電糸による放電機構はコロナ放電であると特定しました。

2.縫糸間隔と制電性との関係(図3)

 上述と同じウールサージにサンダーロン®繊維を10wt%含む導電性縫糸を縫い付けて、縫糸間隔と制電性との関係を調べました。布の摩擦帯電圧はシームの間隔が狭いほど低くなります。およそ2cm間隔までの制電性は良く、変化も極めて小さいのですが、およそ2cm以上になると間隔の拡大に伴って急激に悪くなります。したがって、より少ない導電性縫糸を用いて有効な制電性を得る配列間隔はおよそ2cmであることが分かりました。この実験結果は除電モデルによる理論計算とも良く一致しています。

 一般に繊維材料は電気絶縁体ですが、このように、特殊な加工により導電性が付与されている繊維もあります。これらの繊維は各種の静電気の問題解決に利用されています。なお最近では、衣服に付着する花粉が問題になっていますが、これも静電気のせいです。 (Y. K.)