生活環境講座

第17回 和室のチカラ 橘弘志
はじめに

 かつてに比べると、私たちの住まいから畳敷きの和室は減っています。しかし、戸建て住宅にしてもマンションにしても、一部屋くらいは和室のある家が多いように思います。2階建ての木造アパートなどでは、和室がメインになったもののほうが多いかもしれません。生活そのものが洋風化した現在において、和室が取り入れられた住まいはこれからも維持されていくのでしょうか。今回は、和室の特性について考えてみたいと思います。

伝統的な空間

 まず、和室は日本の伝統的な空間で、江戸時代に完成された数寄屋造りが、現在の和室の完成型と言われています。お座敷は、縁側のある続き間形式となっていることが多く、床の間や違い棚などの座敷飾りが空間を引き締めています。このような和室は、人を招いてもてなすための「ハレ」空間として形成されたもので、あらたまった接客空間として、あるいは地域の会合や冠婚葬祭などのイベントなども行われる空間として、現在もその役割を引き継いでいます。

便利な使い勝手

 和室は、そこに置かれる家具や道具を変えることによって、それ一つがさまざまな使い方のできる便利な空間です。一つの空間を時間で使い分けをするというのは、和室ならではの特徴と言えます。ちゃぶ台を置けば食事室となり、布団を敷けば寝室になり、片付けてきれいな座布団でも置けば客間にもなります。(洋室の場合、リビングにはソファが置かれ、寝室にはベッドが置かれます。この二つを同じ空間にすることはあまり考えられません。)建て売りの戸建て住宅やマンションであっても、一部屋は和室を設けることが多いのは、このように柔軟に活用できる和室の便利さを取り入れているのでしょう。

床座の生活スタイル

 日本のほとんどの住宅では、家に入るときに靴を脱ぎます。家の中でははだしになって、床で直接座ってくつろぐ生活スタイルは、日本人に深く染みついたものかもしれません。(ソファの置かれた洋風のリビングにあっても、結局ソファを背もたれにして床に座る人も多いのではないでしょうか。)冬はこたつが一番という人も、床座のスタイルに慣れ親しんでいると言えます。このような床座に最もマッチしているのが、たたみの和室ということになります。また、床座のもう一つの特徴は、好きな場所で好きな姿勢でいられる、ということにあります。きちんと正座する、あぐらを組む、足を投げ出して座る、ちょっと横になるなど、自由な姿勢をとれるのは、イス座にはない特徴です。

開放的な空間

 和室はきわめて開放性の強い空間です。和風住宅には基本的に壁が少なく、襖(ふすま)などで他の部屋と仕切られることが多く、それらの建具を開け放てば、仕切りのない広々とした空間が出現します。外部との連続性も強く、縁側や軒下などの中間的な空間を介して、室内と外部がゆるやかにつながっています。襖や障子などの建具は、開けるか閉じるかの二者択一ではなく、ちょっとだけ開ける、半分開ける、表は開けるけど中は閉じる、など、さまざまな空間の仕切り方を可能にします。
 このように開放的であることによって和室は、家族以外にもさまざまな人にも開かれている空間として用いられてきました。前述したように、「ハレ」空間としてお客さんをもてなしたり、地域の人々との会合やイベントに使われたりしていますし、縁側などは近所の人とのちょっとしたコミュニケーションにも役立っています。

おわりに

 高齢者の住まいというと、和室を思い浮かべる人も多いかもしれません。これまでの長い生活歴の中で慣れ親しんできた空間だと思うからでしょう。一方で、介護の必要な高齢者の暮らす老人ホームなどでは、車いすの使いにくさや汚れたときの手間などから、たたみの床というのは敬遠され、フローリングやタイル張りが一般的になっています。しかし、上記のような和室の特徴から、和風の住宅を改修して高齢者の施設として活用したり、たたみの床を取り入れている老人ホームも現れています。利用者が自分の生活スタイルを取り戻したり、コミュニケーションが盛んになるなどの効果が認められてきています。(H. T.)