生活環境講座

第20回 子どもの成長と衣服 高部啓子
生まれたばかりの赤ちゃん

 生まれたばかりの赤ちゃんの身長は約50cm、体重は約3kgですが、その後の20年間で男子身長は170cmを超えるほどに、女子身長は160cm近くまで成長します。この間、子どもの体つきはどのような変化を見せるのでしょう。また衣服の形や寸法にはどのような工夫が必要でしょう。データをもとに考えて見ましょう。

子どもは2度の急増期を経て成人値に達する

 身長を例に子どもの成長の様子を観察してみます。成長研究には1人の子どもを何年も追跡してデータを得る縦断的研究と、ある年の各年齢の子どものデータから成長の様子を観察する横断的研究があります。縦断的研究は長い期間の調査が必要なため実施が困難です。多くの場合、横断的研究データを用いて観察されます。

 厚生労働省乳幼児身体発育調査(2000年調査、横断的調査)によると、出生時の身長中央値(平均値的な値)は男児では49.0cm、女児では48.5cmです。1年後の中央値はそれぞれ75.4cm、73.8cmです。1年間でそれぞれ26.5cm、25.3cmも伸びたことになります。1年間でこんなに自分自身の身長が伸びた経験を皆さんはお持ちでしょうか。それほどに乳児期の成長は急速なものです。つまり乳児期が第1の急増期になります。したがって赤ちゃんの衣服は、3〜4ヶ月経つと小さくなり、次のサイズの服が必要になり、1歳になるまでに2〜3回サイズの大きなものに買い換えることになります。

 2度目の急増期は思春期です。図1は1歳から20歳までの身長の平均値を年齢ごとにグラフ上に記し、各点を結んで得られた成長曲線を示しています。グラフの右側の軸は成長量の目盛りです。1年間に身長が伸びた量を年間成長量といいます。年間成長量を見ると男子では13・14歳、つまり中学生時代、女子では11・12歳頃、小学校高学年の時にピークが見られます。この時が思春期的成長の最盛期です。女子のピークを示す時期が男子より2年ほど早くなっています。そのため小学校高学年の11・12歳あたりでは女子の方が男子より身長が高い傾向を示します。

 このような経過を経て身長の成長曲線はゆるいS字状のカーブを描き、男子18歳、女子16歳あたりで大人の値に達しています。


図1 身長の成長曲線(1978-81年,工技院資料)

 中学校で着る学校制服を考えて見ましょう。入学時、多くの男子はまだ思春期的成長の時期に入っていません。したがって身長も低く、体重も軽いです。それが3年間で身長は平均値で約16cm、体重は15kg増加します。どんなに大きな制服を買っていても3年間をそれ1着で間に合わせることは、サイズ的には厳しいものがあります。大きすぎる服も小さすぎる服も着ていて気持ちの良いものではありません。また女子のスカートには丈を伸ばせるように縫い代を多く取っている場合があります。しかし女子は中学校3年間で身長は5cm程度しか伸びませんので、スカート丈にしたらその半分の2.5cm伸ばせる余裕があれば十分ということになります。

成長の速さは身体部位ごとに異なる

 厚生労働省の2000年調査によると、出生時の身長、体重、胸囲、頭囲の中央値(平均値的な値)は、男子ではそれぞれ49.0cm、3.0kg、32.0cm、33.5cm、女子ではそれぞれ48.5cm、2.95kg、31.8cm、33.0cmです。体の周り寸法では頭囲が最も大きいのです。

 図2は少し旧いデータですが、男子について、身体の周り寸法5項目の平均値による成長曲線を描いたものです。1歳では頭囲(46.1cm)とバスト(46.9cm)の平均値は同じくらいで、ヒップ(44.3cm)やウエスト(42.9cm)よりも大きな値を示しています。頸(くび)の付け根の周りは24.2cmと非常に小さな値です。1歳児の胸囲(バスト)≒頭囲>腰囲(ヒップ)>胴囲(ウエスト)の寸法の大小関係は、4歳頃に腰囲(ヒップ)が胸囲(バスト)に追いつき、それ以降、腰囲>胸囲となります。7歳頃に胴囲(ウエスト)が頭囲に追いつき、それ以降、胴囲>頭囲となります。8歳以降ようやく大人と同じ寸法の大小関係(腰囲(ヒップ)>胸囲(バスト)>胴囲(ウエスト)>頭囲>頸付根囲)を示すようになります。これらのことから乳幼児期のこどもは頭部、胸部が大きく、腰部が細いことから上半身が重く、立つには不安定なことがわかります。したがってこの時期の子どもの衣服は、大きな頭を通す工夫、小さな頸まわりと短い頸に対応する必要があります。かぶる形式の衣服で肩明きをつけたり、衿腰のないフラットカラーの衿が多いのはこのような乳幼児の体つきの特徴に合わせているのです。


図2 バスト、ウエスト、ヒップ、頭囲、頸付根囲の成長曲線
(男,1978-81,工技院資料)

 次に大人の値を100とした場合の各年齢の平均値の値を身長、腸骨棘高(ちょうこつきょくこう=脚の長さ)、足長(靴の大きさに近いもの)、頭囲で見たものが図3です。頭の大きさは1歳で、他の項目が大人の40%前後であるのに対して、すでに80%近い値を示しています。グラフの線が上位にある方が、大人に近いとして見ると、足長が一番早く大人の値に達します。足の大きさ、脚の長さ、身長では、足長>腸骨棘高>身長の順に大人の値に達します。身体は末端から成長するといわれますが、この結果からも頷けます。頭囲は、最初は非常に大人の値に近いのですが、13歳で足長に追いつかれ、14歳で腸骨棘高に追いつかれ、15歳で身長に追いつかれ、最後に大人の値に達します。比較的低学年の小学生が身長にそぐわない大きな靴を履いていることに気づいたことはありますか。

 人の成長は上記のように身体各部位で成長の速さが異なるので、それぞれの時期で身体プロポーション(体の大きさや形のバランス)が異なってきます。思春期は身長が急速に伸びるため、比較的ほっそりとしてスマートな体型をしています。それを過ぎ、大人に近づくにつれて、筋が発達し、皮下脂肪が沈着して、男性らしいたくましい体つき、女性らしい柔らかな丸味を帯びた体つきに変化していきます。


図3 百分率成長曲線(男,1978-81,工技院資料)

乳幼児の衣服設計

 衣服は以上のような身体の形や寸法に合わせることが大切です。しかし形や寸法だけで衣服はつくられていません。乳幼児期には、はいはいやつかまり立ち、ひとり歩きなどの身体機能が発達してきます。それらを阻害しないような衣服の構造や素材が求められます。またボタンかけや衣服の着脱の自立などを促すように大きなボタンを使ったり、脱ぎ着しやすい構造を考えたりと、衣服の工夫が求められます。幼児期や児童期では活発に動き回る子どもの安全を考え、フードの形や紐の長さを調整する、皮膚を挟まないようなファスナーのつけ方を取り入れるなど衣服の安全設計が望まれます。

 子どもの衣服はともすれば可愛らしいデザインに目がいきますが、その裏に込められた身体の形態適合性や機能適合性、安全性にも目を向けていく必要があるのです。(H. T.)