生活環境講座

第21回 原発事故と放射能 〜放射線と放射能を表す単位〜 城島栄一郎

 3月11日の大地震とそれに続く大津波で東北地方は甚大な被害を受けました。その大津波で冷却機能を失った福島第一原子力発電所の原子炉が炉心溶融を起こして80日たった今でも収束の見通しが立たない状況です。この事故は1987年の旧ソ連のチェルノブイリ原発事故以来最悪のレベル7と評価されました。原発事故による各地の放射能汚染と人体への影響についてテレビや新聞でいろいろな数値が公表され、社会不安が起こっています。

 今回は、これら放射能についての記事を理解するための説明をします。

1.放射能、放射線、放射性物質

 ウランなどの放射性元素が核分裂(核壊変あるいは核崩壊))するときに、α(アルファ)線、β(ベータ)線、中性子線、γ(ガンマー)線、X線などの放射線を出します。このときの放出エネルギーを熱として利用しているものが原子力発電ですが、放射線を人が浴びるといろいろな障害が発生します。核燃料のようにウランなどの放射性元素を含んだものを放射性物質といいます。放射能とは放射線を出す能力のことです。電球でたとえると、「電球(放射性物質)は光(放射線)を出す能力(放射能)がある。」ということになります。「放射能漏れ」は曖昧な表現で、これだけでは放射性物質が外部へ飛散(あるいは流出)したのか、あるいは、放射性物質は漏れてはいないが放射線が外部へ透過しているのか区別できません。

2.ベクレル((becquerel:Bq)

 放射性物質が放射線を出す能力を表す方法として、1秒間の核崩壊の回数を「ベクレル(Bq)」という単位(回/秒)で表します。放射性元素の量や濃度に比例します。

 1秒間に原子核が自然崩壊する確率は、放射性核種の半減期(元の量の半数に減少するまでの時間)に反比例するため、ベクレルはその核種の半減期と存在量とで決まります。例えば、ラジウム226の半減期は1600年であり、1秒間に原子核1個あたり約1.37×10-11個の原子核が崩壊することに相当し、1gのラジウム226には約2.66×1021個の原子核があるので1秒間に約3.64×1010個が崩壊することになります。したがって、1gのラジウム226の放射能の量は約3.64×1010ベクレルということになります。原発事故で漏えいしたヨウ素131は約8日ですから80日後は約1000分の1に減少します。セシウム137は30年の半減期ですから当分影響が続きます。

3.グレイ(gray:Gy)

 ベクレルは放射線の発生頻度(ひんど)ですが、放射性物質にはさまざまな種類があり放出される放射線の種類やエネルギーの大きさが異なります。また、放射線の発生源からの距離や遮蔽(しゃへい)物によって物体に吸収される放射線量は変わってきます。そこで受けた放射線の総量をエネルギーで換算し、「放射線によって1キログラムの物質に1ジュール(J)の放射エネルギーが吸収されたときの吸収線量を1グレイ」と定義しています。単位はJ/kgとなります。1時間当りの量(Gy/h)で表すと放射線の強さになります。

4.シーベルト(Sievert:Sv)

 放射線による人体への影響は臓器によって違ってきます(生殖腺では大きく皮膚や骨は小さい)。これを全身被爆に適用した場合の放射線吸収量を表す単位が「シーベルト(Sv)」となります。単位はグレイと同じJ/kgとなります。一般には1Gy=0.8Svとなります。私たちは宇宙や大地からも日常的に放射線を受けています。場所によって違いますがその量は年間に数mSv〜数十mSv程度です。年間100mSvまでは健康被害が報告されていないようです。10μ(マイクロ)Sv/hourの強さのところに1年間居続けると、10×24時間×365日=87600μSv=87.6mSvの放射線を受けたことになります。

 このように、放射線が人体に与える影響は放射性物質の放射能量(ベクレル)の大小を比較するのではなく、放射線の種類やエネルギーの大きさ、放射線を受ける身体の部位なども考慮した数値(シーベルト)で比較する必要があります。(E. J.)