生活環境講座

第26回 せっかくこの学科にいるのだから・・・ 高田典夫
はじめに

 僕は、工学部建築学科を卒業して、大学院在学中に、住宅の設計を生まれて初めてやることになってから、もう40年も建築の設計を仕事としてやってきました。そういう意味で言ったら、専門は、建築デザインということになります。
 でも、建築のデザインという仕事は、建築についての知識だけあればできるものではありません。それは、人の生活に寄り添っているものだからです。人の行動、心理から始まって、人を取り巻く環境のこと、経済のことなど、ありとあらゆるものに何らかの関係があるのです。
 だからということではないかもしれませんが、僕は好奇心が旺盛で、何でも知りたがります。そんなこと何の役に立つの…といったことでも、ある日、どこかの打合せで役に立つかもしれないから…と、いろいろなところに出かけて見たり、種々雑多な本を読みあさっています。

アンリアレイジ

 2011年に東京オペラシティアートギャラリーで開催された「感じる服 考える服:東京ファッションの現在形」や、2012年に東京都現代美術館で開催された「FUTURE BEAUTY 日本ファッションの未来性」で、展示されていた数多くの作品のなかで、ちょっと面白いなぁ、いいなぁ、と思ったものをチェックしたら、どちらも「アンリアレイジ」というブランドのデザインのものでした。
 ファッションに関して興味は無いわけでないけど、数あるブランドを追いかけているわけではないので、作品を見てブランドやデザイナーがわかるほど興味があるわけではありません。
 そんな中で、たまたま見たファッションの展覧会で見つけた気になる作品が同じデザイナーの作品だったことに僕自身がちょっとびっくりして、その「アンリアレイジ」という名前に興味を持ちました。

コム デ ギャルソン

 アンリアレイジのデザイナー森永邦彦とコム デ ギャルソンの川久保玲の関係を全く知らないで、彼のデザインを面白いなぁと感じていた僕は、その後、渋谷のパルコ・ギャラリーで開催された「アンリアレイジ」の展覧会で展示されていた彼のデザインの作品とともに、彼のデザインに対するいくつものコメントを読み、彼が少なからず影響を受けた川久保玲/コム デ ギャルソンにも興味がわきました。
 僕自身はコム デ ギャルソンを身にまとったことも無いし、着たいとも思ったことはないけど、時代を表現するファッションであることは知っていましたし、そのデザインに興味はありました。
 ファッションは時代を映すのか、時代を作っていくのかはよくわかりませんが、僕がデザインに興味を持ち始め、自分のデザインを探し始めたその時代をともにいきていた全く別のデザインの流れをたどることで、表現するもの異なっても考えていることはどこか同じなのかもしれないなぁと思いました。それが、ある意味で「時代」なのかも知れません。

デザインを励起する刺激

 デザインとは・・・というのは永遠の課題かもしれませんが、少なくとも僕が建築をデザインしている時に考えていることは、

目に見える形をつくるのではなく
心に響く(生活の)場をつくりたい

ということです。いいデザインというのは、人に感動を与えるものだと思います。そのためには、自分自身が感動できる心を持たなければなりません。
 僕が関わっている建築やまちづくりとは全く視点の異なるジャンルのデザインの動向は、その表現されるデザインそのものではなくて、そのベースにある意識のようなものが僕にとっても刺激になるような気がします。

 僕らの学科は、アパレル・ファッション、プロダクト・インテリア、住環境デザインという3つの分野から構成されていますが、その境界はかぎりなく曖昧です。せっかくそういう学科にいるのだから、自分の専門の分野はもちろん、その他の分野にも関心を持って、いろいろなことに感動できる心を養ってもらいたいと思います。

 僕自身も、まだまだこれからもいろいろな方面にアンテナを張って、刺激を求めていきたいと思っています。 (N. T.)