生活環境講座

第29回 高校教師と高校生の制服に対する意識調査 川上梅
女子高生の制服のスカート丈

 女子高生の制服はミニスカートであるというイメージが定着している。しかし、「女子高生のスカート丈には基準がない」「水戸と新潟の女子高生のスカート丈は特に短いらしい」などの情報を元に、女子高生に制服のスカート丈に関するアンケート調査を行ったのは、2010年のことであった。東京、水戸、新潟の女子校及び共学校に通う女子高生約700人を対象に制服について聞いたところ、半数近くが何らかの方法でスカート丈を短く調節して穿いているとの回答を得た。そして、穿きたいと思うスカート丈は膝上10cmという回答が最も多かった(図1)。
 そこで、2012年には、沖縄から北海道までの高校教師を対象に制服に関する調査を行ったところ、女子高生の望ましいスカート丈は膝丈が理想であるという回答が85%を占めた(図2)。このように“教師の認める規範”は厳然として膝丈にあるが、“女子高生集団の規範”は膝上10cmにあり、両者の意識の乖離を解消するのはかなり困難である。

(図1)女子高生による制服のスカート丈の評価結果
(アパレル企画造形研究室、2010年調査)

(図2)校則に記された望ましい制服のスカート丈
(アパレル企画造形研究室、2012年調査)

 校則の指導の厳しさについては、女子校の教師の70%以上、共学校の教師の60%程度が「厳しい」と回答し(図3)、女子高生対象の調査でも女子校に通学する女子高生のほうが校則通りに穿く傾向がみられた。
 たかがスカート丈と思われる方も多いかと思うが、近く制服を変更予定である女子校の教師は、スカート丈の問題だけでも女子生徒にはされど最も重要な問題のようであると記している。「制服を校則通りに着用するよう厳しく指導している」と回答した高校は半数以上であるが,入試の偏差値が高い高校程,その割合は減少し,生徒の自主性を重んじる傾向が伺える(図4)。

(図3)制服を校則通りに着用するように厳しく指導している
高校の割合-公立・私立/共学・女子校別比較‐
(アパレル企画造形研究室、2012年調査)

(図4)制服を校則通りに着用するように厳しく指導している
高校の割合‐入試の偏差値別比較-
(アパレル企画造形研究室、2012年調査)

制服は受験生が高校を選択する際の重要な要因

 数名の高校教師から、調査結果のホームページ上での公開を求める声があったため、ここに結果の一部を公表させていただく(図5)。
 質問項目は、上から「制服を校則通りに着用するように厳しく指導している」(図3、図4参照)、「制服は学校の伝統を継承する上で重要な役割を果たす」「制服は受験生が高校を選択する際の要因の一つである」「学習/進路指導が優先であり、制服による規律はあまり重要ではない」「個性を育てるためには制服はないほうが良い」「制服をおしゃれに着こなすことは大切である」の6項目である。左図には東日本、右図には西日本の高校の集計結果を示す。

(図5)高校生の制服に対する高校教師の意見
(アパレル企画造形研究室、2012年調査)

 現場で指導されている先生方の多くが、校則通りに制服を着用するように厳しく生徒指導をしており、制服は伝統継承上重要な役割を果たしていると考えている。学習・進路指導優先のため、あるいは個性を育てるために制服は不要という意見は否定されており、教師は制服の役割を認め、支持する考え方が大勢であることが確認できる。
 また、生徒が制服を「高校選択の際の要因の一つ」と捉える考え方には、「やや肯定」が「肯定」よりも多いものの、両方を合わせると70%以上と多いことに注目したい。少子化の影響で受験生確保のために厳しい状況に置かれている高校の現状を察するとともに、今日の高校生が制服に高い関心を示しているという現実がある。

 また、冒頭の校則破りのミニスカートもその一つであるが、女子高生の“おしゃれ感覚”が具現化した現象が認められる。高校教師は教育的価値観を保持しつつ、高校生の“おしゃれ感覚”に向き合わなければならない時代になってきていることを実感しているという結果である。
 ただし、「制服をおしゃれに着こなすことは大切である」には否定意見が多く、高校教師が制服に対するキーワードとして挙げた言葉が、清潔感、清楚、きちんと着る、身だしなみ、教養等であったように、制服の“おしゃれ感覚”が必ずしもファッショナブルな制服あるいは着方を意味するものではなく、制服は高校の象徴的な役割を果たす通学着であり、「制服は生徒を平等に扱う」ためのものであると記された教師の言葉が心に残った。

 ところで、図5の東日本と西日本での集計結果から、西日本では「肯定」「否定」とはっきり意見を示すのに対し、東日本では「やや肯定」「やや否定」が多いことに気づく。これは西日本と東日本の“文化差”といえるのだろうか。東西日本の意見には整合性があり信憑性が高いことが分かるが、回答傾向の差異は明らかに存在する。このような東西日本の文化差は興味深い。

自立への準備と自己意識の確立の時期‐高校生の抑制されたファッション行動‐

 青年期にある高校生は自立のための準備段階にあり、自分自身への関心が高まる時期にあるといわれている。また、身体、化粧、服装等、外見への関心も高まる時期である。しかし、生徒指導の一環として校則で化粧や制服については禁止されている事項も多く、高校生の化粧や被服行動は規範によって抑制される方向にある。高校生のファッション行動には子どもや成人とは異なる独特の特徴が観察できる。

 最後に、調査にご協力下さいました高校の先生方、女子高生の皆様に深く感謝申し上げます。 (U. K.)