卒業論文ピックアップ

実際に高齢者施設のリビングを改装してみました
→居心地も、雰囲気も、表情も、少し豊かに変わります


介護の必要な高齢者がお世話されている老人ホーム。
最近の老人ホームは、「ユニット型」といって、10人程度のグループごとに家のリビングのような環境で過ごすことで、高齢の入居者が落ち着いて生活できるように考えられています。この研究は、2012年にオープンしたばかりの、そんな新しい老人ホームが舞台です。

でも写真をみると、広々とした空間にダイニングテーブルくらいしかなくて、ちょっと殺風景に見えます。実際に調べてみると、やはりリビングではとくにすることがなく、食事が終わると自分の部屋に帰ってしまう人が多いという結果でした。環境をもう少し落ち着ける場所にしたら、入居者の生活も少し変わってくるのではないでしょうか。

そこで、施設長さんやスタッフの人たちと何度も打ち合わせを重ねながら、リビングを改装するアイデアをいろいろと提案していきました。スタッフの人から意見をうかがいながら何度か変更を繰り返し、改装案を決定して実践することになりました。

(1)テーブル以外に落ち着ける居場所をつくるため、パーティション家具で軽く仕切った「こたつコーナー」を設ける。
(2)入居者の記憶を呼び起こしたり、会話のきっかけになるように、壁を使った写真や作品の「展示コーナー」をつくる。

その結果、生活全体に大きな変化が起こったわけではありませんが、以下のような、いろいろと小さな変化をもたらすことはできました。

・今までリビングで落ち着きのなかった人がこたつコーナーに行くと落ち着くようになった。
・写真があることで入居者の人が立ち止まったり興味を示したりするようになった。
・リビングにモノが増えたので、会話のきっかけができて、リビングで間が持つようになった。
・家族と一緒に写真を見て回ったり、家族の人が新しい写真を持ってきてくれるようになった。

環境には、人の興味や行動を引き出す力があることが分かります。少しずつではありますが、その人らしさが表に出てくるようにもなりました。
介護の必要な人は、もう自分で何もできなくなった人ではありません。自分で身体を動かしたり、自分の要求を表現することの難しいような人だからこそ、その人らしさを引き出す環境が大事なのではないでしょうか。



高齢者施設における居場所の可能性(村松愛理、米本祐子)より

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