本学所蔵本の書誌
山岸文庫蔵。秋成自筆。巻子本。一巻。縦二七・一糎、横六三六・三糎。亀甲に雲龍織文藍色表紙。題簽なし。見返し、銀砂子散らし。巻初に「山岸文庫」の朱印。箱は、縦三一・六糎、高さ七・四糎。蓋の表右下に「山岸文庫」の墨印。
『不留佐登』(ふるさと)執筆の事情及び時期
前書きによれば、ある夜、力斎と秋成が語って、蘇子膽(軾)の「唐に文章無し。…」(『東坡志林』巻七による)の評に話が及び、その韓昌黎(退之)の『送李愿帰盤谷序』を、以前に、李太白の『春夜宴桃李園序』を国ぶりに書き改めたように直して欲しい、という力斎の求めに応じて、秋成が書いたものであるという。識語によれば、亨和三年正月(秋成七十歳)の成稿ということになる。
この『不留佐登』は、『藤簍冊子』巻五に、『故郷 傚韓退之送李愿帰盤谷序』の題で、文章に僅かな異同があって収まっている。以前に、『春夜宴桃李園序』を和文に書き直したものというのは、同じく『藤簍冊子』巻五で、『故郷』の直前にある『應雲林院醫伯之需擬李太白春夜宴桃李園序』の一文を指す。韓昌黎のものも李太白のものも、ともに『古文真宝後集』巻之三「序類」に所収。秋成は唐代の序の佳篇を二度にわたって和文化していることになる。かつて中国種の典拠を見事な和漢混淆文(あるいは和文)に翻案して見せた『雨月物語』の作者の、文章家としての力量をうかがうに足るものである。
「調査報告11 長島弘明氏解題・翻刻」(『文芸資料研究所年報』 第4号)より抜粋 |