実践女子大学図書館常磐松文庫所蔵
奈良絵本

奈良絵本とは
室町時代末期から江戸時代初期にかけて、中世小説(御伽草子)を主として描いた絵巻、絵本が作られた。これらは一般に奈良絵本と呼ばれている。
構図は、天地に金泥のすやり霞と呼ばれる雲形を配し、彩色は鮮やかで、金泥・金銀箔の使用が目立つ。しかし、これら奈良絵本の様式は一定ではなく、素朴で民芸的なものや精緻で細密画の趣を呈するものなど多様である。今回は、本学所蔵の奈良絵本のうち比較的製作年代が古いと思われる善本を展示する。
(1)おちくぼ奈良絵本(写本三冊・常磐松989)
寸法29,8×22,4糎。紺地金泥絵表紙。左肩に金泥雲霞引き書題簽「おちくほ 春之上(春之中・春之下)」を貼付(題簽寸法16,7×3,5糎)。題字は三冊同筆。袋綴(四針眼訂法・黄色糸)。本文料紙金泥彩色絵入り鳥の子。前後見返しに布目地模様入り金箔を使用。内題なし。片面一〇行。第一冊目冒頭行18字。全冊一筆。絵師によると見られる極彩色挿し絵が、上冊に5・中冊に6・下冊に7場面あり。奥書・識語等なし。印記も本学の印のみ。江戸期の嫁入り本か。
平安時代の「落窪物語」とは別。むしろ「落窪の草子」(小落窪)に近く、その別本とすべきか。おちくほの中将とうちさはの中納言かねかたの姫君をめぐる恋愛物語。該書は春之巻だけの端本であるが、次本(2)の「おちくほ 秋上」やアイルランドのチェスター・ビューテイ図書館蔵「四季さうし 夏之上(夏之中)」・市古貞次氏蔵「佚名物語」等との関係が注目される。
(2)おちくほ 秋上(写本一冊・常磐松966)
寸法29,3×21,8糎。紺地金泥絵表紙。左肩に青地に金泥絵入り書題簽「おちくほ秋上」を貼付(題簽寸法18,1×3,5糎)。袋綴(五針眼訂法・小豆色糸)。本文料紙厚手の鳥の子。前後見返しに卍繋地模様入り金箔を使用。内題無し。片面10行。冒頭行20字。絵師によると見られる極彩色絵14場面を有す。書写者と絵師は前本(1)とは別人か。奥書・識語等なし。印記も本学の印のみ。「さなきたに秋のゆふへは物かなしく」で始まる本話では、女主人公は既に都を離れ玉水に移り住んでいる。
(3)栄花物語(写本三冊・常磐松)
寸法20,8×17,5糎。分銅菱に花丸散らし青色緞子表紙。中央に金砂子散らし書題簽貼付。題字は三冊同筆で、それぞれ「月のえん 一」「花山たつぬる中納言 二」「さま/\のよろこひ 三」と墨書。また表紙右肩に「絵五」「絵五」「絵四」と墨書した白い紙片を貼付するが、各冊にある極彩色絵の数と一致する。
袋綴(四針眼訂法・小豆色糸)。各冊とも金砂子散らしに霞引き見返し。本文料紙には色替わり斐紙を使用。巻首題「月のえん」「花山」「さま/\のよろこひ」。片面行数19字。第一冊目物語冒頭行20字。奥書・識語等なし。印記も本学の印のみ。
該書は平安時代後期の歴史物語である「栄花物語」の巻一から三までの写本である。絵入りという点が珍しいが、本文は古本系梅沢本に似る。江戸期の写本か。
(4)しゅてんどうじ(写本三冊・常磐松)
寸法32,6×27,0糎。紺地金糸花鳥紋緞子表紙。中央に紺地金糸草花紋緞子切れを貼り、更にその上に金泥題簽を貼付する。題字は「しゆてんとうし 上(中・下)」と墨書。全冊一筆。もとは金砂子散らし雲霞引き鳥の子料紙を継ぎ合わせた巻子本だったのを、折本に仕立て直したものか。その際、同一画面が見開き内に収まるよう、折本幅に余った分は左右に折り込む等、特殊な仕立てをしている。極彩色絵入り。奥書・識語等なし。印記も本学の印のみ。
上中下三巻からなるいわゆる伊吹山系「酒呑童子絵巻」の一異本であるが、従来知られている諸本とは本文に小異がある。頼光とその四天王による酒呑童子退治の物語。江戸初期書写。
(5)わか草・奈良絵本(写本三冊・常磐松)
寸法29,9×22,4糎。紺地金泥絵紙表紙。左肩に書題箋貼付。第一冊目は空色無地に「わか草上」、二冊目は題簽剥離、三冊目は金泥雲霞引きに「わか草下」と墨書。題字は一筆。袋綴(五針眼訂法・黄色糸)。本文料紙には金泥絵あるいは薄青地紋入りの鳥の子を使用。前後見返しに布目地模様金箔を貼る。内題無し。片面行数10行。第一冊目冒頭行16字。全冊一筆。絵師によると見られる極彩色絵が上冊に7、中冊に7,下冊に7場面あり。奥書・識語等なし。印記も本学の印のみ。木箱入り。箱の底に「延宝頃筆写、住吉風極彩精描二十一図入・・」という書肆の紙票がある。
嫁いじめもので、父大納言の反対を押し切って従姉妹の若草と結婚した少将が、清水観音の利生により一族もろともに繁栄するという物語。悲劇的結末の天理本以下の別系諸本に対し、慶応大学本と同じ祝言色の濃い特殊な内容の異本で、しかも挿絵を欠く同系本に比してより古態をとどめた善本。江戸前期書写。
(6)蓬莱山・奈良絵本(写本二巻・常磐松)
紙高25,3糎の大型巻子本。緑地に草花金襴布表紙。金泥題簽に「蓬莱山 上」「ほうらい山 下」と墨書。押竹あり。紐は黄と黄緑色の平織。爪なし。象牙軸。布目地模様金箔見返し。本文料紙も布目地模様鳥の子。内題「蓬莱山」。極彩色絵入り。奥書・識語等なし。
蓬莱山の致景の数々と由来とを述べ、さらに紀伊国名草郡の漁師あづみの安彦の蓬莱山往還登仙の経緯を述べる祝言もの。本文は赤木文庫本と同内容だが、同本の第五・六・七図が該本にはなく、第十・十一図の内容に出入りがあるらしく、また絵の位置が互いに相違するなどの異同がある。江戸初期書写か。
協力:実践女子大学文芸資料研究所