第21号(1998.12) 目次に戻る

大学英文学科 教授 大 関 啓 子
中世ロマンス文学の傑作『ガウェインhと緑の騎士』(Sir Gawain and the Green Knight)は、アーサー王の宮廷のクリスマスの響宴から始まる。馬に乗った全身緑色の不思議な騎士が闖入し、アーサーと円卓の騎士たちに、首切りのクリスマス・ゲームを挑む。緑の馬、緑のチャペル、緑の帯と、物語は一貫して自然界を表す緑色を基調に、クリスマスに始まり次のクリスマスで終わる。イギリスのみならず欧米の人々の心の故里とされる伝説の王アーサーは、ケルト民族の王といわれる。ケルトにとって緑は、聖なる森さらには永遠の生命の象徴であった。
現代でも、緑はクリスマスのシンボルカラーとして、キリストの血を表わす赤、希望を表わす金銀とともに、さまざまなクリスマス飾りに用いられている。11月末、イギリスの町々の市場には、もみの木やヤドリギが並び、子供も大人も胸踊らせて、クリスマスの飾りつけを共に楽しむ。クリスマス・ツリー、キャンドル、ヤドリギ、聖歌、クリスマス・ディナー、そしてプレゼント、これらは今ではすっかりクリスマスの定番となっているが、もともとはキリスト教ではなく、それぞれ異教の習慣を結びつけたものであった。イギリス特有の「ヤドリギの下のキス」(“the kissing under the mistletoe”、クリスマス飾りのヤドリギの下にいる女性にキスをしてもよいという習慣)のヤドリギ飾りも、もともとはケルトのドルイドや北欧の神話にみられたものであった。
『ガウェインhと緑の騎士』をはじめとするアーサー王ロマンスが、ケルトの異教の王とキリスト教精神を結びつけたように、人々は皆がクリスマスを楽しめるよう、さまざまに異なった異教の習慣をもとり入れてきた。緯度の高いイギリスでは、11月になると午後3時にはもう日が暮れてしまう。長く厳しい寒さのイギリスの冬、クリスマスは、宗教行事であると同時に、やがて冬は去り、明るい季節がやって来るという希望と心の張りを、人々に与えてくれるお祭りでもある。