第21号(1998.12) 目次に戻る
学生に勧める本
大学食生活科学科 教授 中 川 靖 枝
「ノーベル・フラウエン−素顔の女性科学者」(学会出版センター)
ノーベル賞は毎年、アルフレッド・ノーベルの命日の12月10日にストックホルムで授与式が行われる。この賞は物理学賞、化学賞、医学生理学賞、文学賞、平和賞、経済学賞の6部門にわかれているが、自然科学領域の前3賞はノーベルの遺言によると「前年において最も重要な発見もしくは改良することにより人類に著名な貢献をした研究者」に授与されるはずであった。すなわち、ノーベルの遺志は、賞をめざして奮起する十分に若き自然科学者が世に出る支援を望んだということである。しかし、現実には文句のつけようがない成果をあげる若き研究者は稀で、ある程度の成果をあげている研究者の業績について極秘裏に審議がなされる。このため、受賞者の平均年齢は62歳で、科学者の経歴の終わりを飾る栄冠になっている。もとより賞というものは自己評価ではなく他者による評価であるから、該当者を含めすべての人が納得するとは限らない。女子大学で勉学する学生が在学中に受ける評価や、社会に出てさまざまな場面で受ける「評価とは何か?」と考える際の手懸かりになればと、「ノーベル・フラウエン−素顔の女性科学者」(U.フェルシング著 田沢・松本訳)を推薦図書に選んだ。
著者のウラ・フェルシングは、ハンブルグでフリーのジャーナリストとして活躍中の政治学博士である。本書の前半は、「熱望される科学の栄冠」「ノーベル賞は男だけのものか」「九人の女性に十のノーベル賞」からなり、栄誉を受けた女性科学者が具体的にどのような選考過程を経て選出されたのか述べられていて興味深い。先に本賞がノーベルの意志に反して、かなり時間が経過した業績に贈られていることに触れたが、それは初期に医学生理学部門で発癌物質に対する誤った理論に授与した手痛い経験からの慎重さが一因と釈明されている。さらに、自然科学部門では本書が出版された1991年までに、羨望のトロフィーが女性に対して10回しか贈られてないことから、女性がめったにノーベル賞というケーキの片割れにありつけない状況に言及している。また、マリー・キュリー、イレーヌ・ジョリオ=キュリーの母娘を始めに9名の受賞者についてはライフスタイルや境遇に触れ、未婚者、既婚者、子育てとさまざまな様子と、受賞も単独、夫婦そろってなどその背景が述べられている。後半は「ノーベル賞受賞者の陰で」「ストックホルムへの難関」「ノーベル賞受賞者は特定のタイプの女性か?」「次は誰か?」からなり、檜舞台に立つ栄誉に縁がなかった女性科学者にも光があてられている。受賞女性は日常生活において女性美の外面的な特徴に、誰一人として過大な価値を置かなかったが、それは”過剰な女らしさ”どんな場合でも女性科学者の評判を落とすことになったのに対し、中性的な外見は通常なら女性に許されないような行動を可能にしたからである。例えば、研究における独立独歩を得ようとする勇気や研究におけるつまらない”下働き”への抵抗、さらに研究の持続を保証する友人や配偶者を選択するなどである。既婚受賞者は、女性をアクセサリあるいは母親代わりに必要とする、古めかしい意識の男性には何ら関心を持たず、学問上の同業者を伴侶に2〜3人の子供も育てた。彼女たちは研究生活を決して生真面目なことがらとしていたわけではなく、自分の専門分野に関連して大いに楽しんで満足していた。21世紀に働く女性のあり方に、思い悩んでいる人には少なからず参考になるであろう。
(大学図書館所蔵 289-F84F)