第21号(1998.12)         目次に戻る


古典籍紹介 1

宗安小歌集(異本) 常磐松文庫所蔵

 

 『宗安小歌集』は別名「室町時代小歌集」とも称される。民衆のエネルギーの発露とも言うべき中世歌謡の中でも、中世末期から近世初頭にかけて流行した小歌を集成した本書は、「閑吟集」に代表される伝統的な小歌を含みつつ、近世歌謡の萌芽の見える隆達節小歌への流れの中で、その中間に位置する。近世歌謡の洗練された小唄に比べて、素朴で、人々の感情をストレートに表現した口ずさみの謡(うた)である。

 この『宗安小歌集』は、昭和6年9月、笹野堅氏所蔵の巻子本が、『室町時代小哥集』(萬葉閣刊 玻璃版 所収歌数二百二十一首 うち二首重複)として影印・翻刻され世に出たが、原本が長年行方不明となっていた。その原本が、一昨年65年ぶりに発見されて国文学研究資料館の所蔵に帰し、平成9年5月「よみがえる宗安小歌集」と題して展示会が催された。

 編者は宗安。その人物については諸説あるが未詳。序・奥書は、久我有庵三休。久我敦通(寛永元年没六十歳)説と、その叔父日勝(天正十五年没四十六歳)の二説がある。

 その序文「ちはやふる神代は、文字の数定まらず。人の世となりて三十一文字の歌に定めしよりこの方...」は、『古今集』の仮名序「ちはやふる神代には、歌の文字も定まらず(中略)人の世となりて素戔鳴尊よりぞ、三十一文字あまり一文字は詠みける...」の形式を借りたパロディであり、本歌取りの小歌も多く存在する。またその序文に「独り酒を楽しみ小歌を歌ひつつ、貴きにも交はり賤しきにも睦び、老いたるをも伴ひ若きにも懐かしうせられたる、沙弥宗安といふあり、古き新しき小歌に節々を付けて、川竹の世々のもてあそびとぞなし侍る。」とあるように、古典の教養の深い貴族、僧侶、武士階級の知識人層と裕福な庶民階級が混在する「雅」と「俗」の遊興の世界でもあった。

 現存する『宗安小歌集』は、この笹野堅氏旧蔵本と実践女子大学本の二本である。実践女子大学本(列帖装一帖 所収歌数十九首 うち一首重複)については、「宗安小歌集(調査報告三 竹本幹夫先生担当)『実践女子大学文芸資料研究所年報』第1号 昭和57年3月刊)に詳述されている。

【実践女子大学本】

◯題簽・外題・内題等はなく、奥書もないが、『宗安小歌集』独自の小歌が過半を占めるため『宗安小歌集』と特定できる。巻末に笹野本序文の後半部が付載され、所収十九首の全てが笹野本と重複するが、笹野本の抄写本ではなく、同一原本から派生した異本と位置づけられる。

◯特徴は、半丁毎に小歌一首を散らし書きにしており、遊び心にみちあふれた趣味人の生活がうかがわれる。

参考に小歌二首を並べてみました。さて下の歌は、どこから詠み始めるのでしょうか?

1)独り寝しもの、憂やな二人寝、寝初て、憂やな独り寝

2)衣衣(きぬぎぬ)の枕に、はらはらほろほろと 別れを慕うは、涙よの、涙よの

 

◯この『宗安小歌集』の二本を影印・翻刻した図書が、来年3月国文学研究資料館より刊行されます。寄贈されましたら、是非ご覧ください。

 

*実践女子大学図書館のホームページにて第2回電子展示『赤本の世界』(佐藤悟国文学科教授解説)を行っております。「かくれ里福神嫁入」、「舌きれ雀」(2点)など親しみやすい江戸期の刊本が、頁を開く感覚で一読出来ます。是非ご覧ください。