第22号(1999.7)         目次に戻る


 学生に勧める本 

 

大学生活環境学科 助教授 槙    究 

 

 私の薦める一冊の本


D.A.ノーマン(野島久雄訳) 「誰のためのデザイン?」 新曜社 1990
(大学図書館所蔵501.8−N84)


 学生だった頃、同期の女の子とこんな会話をしたことがある。

「金縛りになったことある?」、「一度だけ。」
「そのときどう思った?」、「金縛りとは脳が覚醒していて体が覚醒していない状態だと何かで読んでいたので、2分ぐらい待ってから体を動かした。そうしたら、動いた。それで、本に書いてあることは正しいとわかった。」

 非常に冷静な反応に感心されると思いきや、「そんな感動のない生活してて、何が楽しいの!?」と揶揄されてしまった。
 いや、違う。こんな私でも、年に数度、本当に感動することがある。ただ、それは大体において、予測と違う研究結果が出たとき(これがまた多いんだな、実は。)とか、本を読んでいて、「こんなものの見方があったのか。こんな考え方もあるのか。」と気づかされたときとか、まあ、それらがほとんどである。ということで、本というのは、私にエクスタシーをもたらしてくれる可能性の高い媒体なのである。電車の中で、エクスタシーに浸っている私に出会ったら、声を掛けてはいけない。

 

 さて、本日紹介する一冊は、この大学に赴任してすぐの頃に読んで、基礎造形論という授業のネタにしているものである。
 ノーマンは高名な認知心理学者であり、認知心理学をやっているという人がこの名前を知らなければもぐりである。有名な大学を渡り歩いていたのだが、最近大学を辞めてしまった。大学で研究をしていても、現実世界を変化させる力が乏しくてつまらないからだそうである。それで、Apple Computerに再就職したのだが、その後どうなったかは、寡聞にして知らない。

 彼は非常に多分野に渡って活躍してきたが、この本を書くきっかけになったのは、機械と人間のインターフェース、特に原子力施設とか飛行機とかのシステムにおけるフェイルプルーフの研究に関わったことだろう。
 飛行機が落ちると、フライトレコーダーが回収され、操縦士がミスをしたのが原因だなどと言われることが多い。でも、果たしてそうだろうか。ミスしやすい設計が問題なのではないだろうか。そういう観点から、システムを眺めることが事故を減らすことにつながるはずだ。そういう信念の下、彼はインターフェースの研究に取り組んだのである。

 そして、人はすべてを知識として持っているのではなく、身の回りの環境を解釈して様々な情報を取り入れながら判断を下していることに気づき、誤った解釈を引き起こしにくい環境の特徴を明らかにしていったのである。
 と言うと難しそうなのであるが、この本の中で彼は、身の回りに普通にあるモノを通して言いたいことを語るという姿勢に徹している。電灯のスイッチとか、スライドプロジェクターとか、ドアの押し引きとか、そういう身近なところにも操作の間違いは存在すること、それはデザインによって相当部分防げることをわかりやすい文章で教えてくれる。

 デザインは美しければいいと思っている人、どうしたら使いやすいデザインになるのか悩んでいる人、自称機械オンチの人、そういう人に一読を薦める。エクスタシーを味わえること、請け合いである。
 なお、続編として、同じ出版社から『テクノロジー・ウォッチング』という本も出ている。興味が涌いたら、これも読んでみよう。

D.A.ノーマン(佐伯胖監訳)「テクノロジー・ウォッチング」 新曜社 1993
(大学図書館 504−N84)