第23号(1999.12)       目次に戻る


レオナルド・ダ・ヴィンチの「最後の晩餐」

大学美学美術史学科 専任講師 片 桐 頼 継

 

 レオナルド・ダ・ヴィンチが「最後の晩餐」でまず第一に表現した内容は「ユダの裏切り」です。弟子の裏切りをイエスが予言すると、弟子たちの間にまるで波が伝わるように衝撃が走ります。張本人のユダはオロオロと狼狽しますが、他の弟子たちは彼が裏切り者だということに気がつきません。まさか教団の幹部であり会計係だった人物が裏切るなどとは。まるで今日の私たちがサスペンスドラマのクライマックス・シーンを見ているように、当時の人々はこの絵を見てドキドキハラハラしたことでしょう。

 ところが、完成当時から絶賛され、ルネサンス美術だけでなく、西洋美術あるいは世界の美術の歴史における最高傑作として尊敬されてきた作品であるにもかかわらず、さまざまな悪条件が積み重なり、この壁画の保存状態は最悪でした。絵の具の剥落、絵肌の亀裂、かび、汚れ、後世の誤った加筆や上塗りなど、絵を悪化させる要因が壁画を覆い尽くし、もはや瀕死の状態にあったといっても言い過ぎではありません。

 そして今回、20年という膨大な時間と労力が費やされ、「最後の晩餐」は何とか一命を取り止めました。しかし今後いつまでこの世界遺産がもつのか、専門家の間でも予測できないというのが現状です。それにしてもレオナルドが3年もしくは4年で描き上げたのに、それを修復するのに20年の歳月を要したというのは、ちょっと考えると妙な感じがします。しかしそれだけ困難な作業だったわけです。

 修復作業はようやく今年の初旬に完了し、「最後の晩餐」は5月28日から再び一般公開されました。洗浄によってオリジナルの姿が明らかになった傑作を見ようと世界中から人々が集まり、連日予約でいっぱいです。それでもキャンセル待ちなどの観光客で長蛇の列ができています。

 今年の9月、美学美術史学科の学生31人が参加した美術鑑賞ツアーでも、さっそくグラツィエ修道院を見学コースに加え、この傑作を鑑賞してきましたが、これまで埋もれていたその美しさに皆ため息を洩らしました。