卒業論文要旨(2002年度)

入居者の生活からみたユニットケア型高齢者居住施設に関する研究

2002年度卒業論文 空間デザイン研究室 藤井夏江・吉野麻子

1.はじめに

ユニットケアとは、施設をいくつかのグループに分けて生活単位を小規模化し、従来の大規模施設で行われてきた流れ作業的なケアから、暮らしをともにする家庭的なケアをつくり出す方法である。本研究では、ユニットケア型の特別養護老人ホームを対象として調査を行い、入居者の生活の様子からその生活環境としての特徴を考察する。

2.研究の方法

2002年11月13日、千葉県のK特養において入居者の行動調査を行った。午前7時から午後7時の間15分おきに、各入居差補予備スタッフの居場所と行動の様子を記録し、計49回のデータを得た。

3.結果および考察

(1)施設の一日の生活の流れ
K特養の空間的特徴から、施設空間を表1のようにprivate〜publicまで5段階に分類した。調査時間内の一人あたりの平均滞在時間をみると、個室であるprivateよりもユニットごとのsemi-privateで長く滞在しており、入居者の生活の拠点となっている。そこでは他者と過ごしたり、食事やおやつなどのプログラム行為など多様な用途で使われている。other-semi-private、semi-public、publicは利用頻度は少ないが、他の入居者や職員とコミュニケーションをとる人、煙草を吸う人など、それぞれが自由に利用している。

(2)ユニットでの過ごし方
次に、2回の4ユニットにおける自リビング滞在者数の一日の変化に注目する。どのユニットも食事の時間帯にリビングに集まるのは共通するが、その時間はユニットによって少しずつ異なっており、またつねに全員が集まっているわけではない。これは全員で機械的に決められた時間に食事が行われるのではなく、ユニットごとに入居者個人の生活に合わせたケアが行われていることを表している。それ以外の時間帯もユニットによって、様々な過ごし方がなされている。

(3)入居者の生活空間の使い方
入居者個人の生活の展開に注目すると、ほとんどの時間を自室で過ごす人、自リビングで他の入居者やスタッフと過ごす人、s-publicやpublicを積極的に使いこなす人など、人によって空間の使い方は様々であることが分かった。例として、ある入居者の生活空間の使い方を図3に示す。

4.まとめ

K特養では、s-privateを生活の拠点としながらも、人によって空間を使いこなし、それぞれの入居者に合わせた生活が送れている。ユニットケアの空間構成・ケアのあり方が、そのような個別の生活を支える生活環境をつくり出している。

(表1)施設内空間の分類
(図1)各空間の平均滞在時間とそこでの行為(グラフ)
(図2)2階4ユニットにおける自リビング滞在者の割合(グラフ)
(図3)Mさん(女性、94歳)の生活空間の使い方(Mさんは自分のse-private以外にも、他のsemi-privateやsemi-publicも積極的に利用している。頻繁にsemi-publicにある喫煙コーナーを訪れ喫煙したり、そこで他の入居者とよく会話している。また、自分のsemi-privateから喫煙コーナーまでの移動中に他のリビングに立ち寄り、他の入居者と話すことも多い。private空間には、食事の前後に滞在したり、「入室しないでください」という札を用いて一人で過ごす空間を確保していた。)



2003-2004, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2004-3-01更新