卒業論文要旨(2002年度)

地域に根ざした住環境の維持と変容

2002年度卒業論文 空間デザイン研究室 山崎早苗

1.はじめに

日本の住宅は特に戦後から現在にかけて大きく変化した。そのことは、住まいの形だけでなく、人の住み方や意識、地域との関係に至るまで大きな影響を与えている。本研究は比較的過去の住まい方の残る地域を対象として、家・人・地域の関わりの変遷を調べ、その維持と変容について考察する。

2.研究方法

首都圏に含まれる神奈川県でも急激な都市化減少は見られず、農村景観を比較的残している地域を対象として、住宅を中心とした住環境の維持と変容について住人に対するアンケート(25名)および詳しい聞き取り調査(5例)を行った。

3.対象地域の住宅の概要

アンケート結果から、ほとんどの家で建替え・リフォームが施されているが、縁側・続き間・和室の茶の間等は維持されていることが分かった。建替えの際には、家の開放性、先祖との関係、農業のための空間等が重視されていた。近所の人の訪問頻度は比較的多く、部屋に通すのみならず、玄関先、縁側、庭先など様々な対応の場所がある。

4.家・人・地域の維持と変容

(1)家の環境
かつての間取りは田の字型の間取りで、襖によって仕切られていた。土間から家全体が見え、縁側は昼間、開放されているため、プライバシーはほとんどなかったと言える。しかし現在は、個室が増える一方、引き戸の玄関・続き間・縁側などは多くの家に残る。

(2)人の住み方・意識
昔の家ではデイ(床の間)と座敷などはハレの室であった。また奥の間は一家の長が寝るといった厳粛な家族的秩序があった。しかし、現在はその秩序の意識は薄れたが、和室の続き間は存在し、講事・人寄せ等の特別の機会に使われている。

(3)地域コミュニティ
昔は縁側・土間等開放された空間により、近所の人が頻繁に訪れてきていた。また続き間での講事が多く、自然と共同体という意識が高まった。現在では、開放された空間としての引き戸の玄関・縁側などが、近所の人との接触を促しており、コミュニティにおいては、昔と現在の両者の意識が存在するバランスのとれた関係にあるといえる。

5.考察とまとめ

昔の家は、プライバシーを重視した閉鎖的な現代住宅とは異なり、そこで農業が行われ、近隣の人との接触を促し、地域行事が行われることで人が多く集まることなど、開放的で多機能な空間であった。そこで家族は地域と関わりながら暮らし、それが地域の共同性を高めることにもなった。つまり開放的なつくりの家を媒体として人と地域とが深く関わっているといえる。現在、この関係は少しずつ変容しながらも、程良く維持、継承されている。

(図1)現在の家にある部屋・空間(グラフ)
(図2)立て替えの際に重視したこと(グラフ)
(図3)Aさん邸の変容と住まい方
「昔の間取り 明治11年〜」この時代は子供が多く大家族だった。二階で養蚕をしていた。続きまではさまざまな催しごと(講事・お祝い・冠婚葬祭・演劇等)をしてとにかく人が多く集まった。その隣の縁側の戸は子供が開け、昼間は開放されていた。居間で食事をする際に神棚がデイ(床の間)にあることから、神棚のより近いところから純に座っていた。この後何度かのリフォームで個室を増やし、土間は最終的になくなった。
「現在の間取り 昭和61年〜」現在は7人家族である。個室の必要性から建て替えた。昔と同じ位置に続き間があり、現在でも講事等を行っている。昔の家との違いは居間の移動と個室の増加、新たに茶の間が出来たことである。来客時は茶の間か居間で接客する。また離れに個室が二つあり、そこに父母の部屋と長女の部屋がある。



2003-2004, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2004-3-01更新