卒業論文要旨(2004年度)

特別養護老人ホームにおける主体的生活形成に関する研究 〜ユニットケア改修事例より〜

2004年度卒業論文 空間デザイン研究室 鎌田智絵

1.研究の背景と目的

ユニットケアとは、高齢者施設において生活単位を小規模化し、家庭的な雰囲気の中でゆとりある介護を行い、入居者の生活を中心とする試みである。新築のユニットケア型施設を対象とした過去の研究では、多様な生活スタイルを持った入居者が施設内で生き生き過ごしているという結果が出された。本研究では改修によってユニットケアを目指す施設の実態を検証し、新しい施設の在り方を示すことが目的である。

2.方法

改修によって部分的にユニットケアを導入したN特養(図1)を対象とし、全入居者47人の滞在場所・行為を15分ごとに、スタッフの場所・行動を1分ごとに、7時から19時まで記録した。分析では、ユニットケアを導入した部分と従来通りの部分とを比較した。

3.結果

(1)スタッフの介護行為
基本介護(食事・排泄・入浴・移乗など)以外の直接介護を「ゆとり介護」とした。従来型、ユニット型とで介護行為に差は見られず、ゆとり介護の全体に占める割合は非常に低い(図2)。施設内の介護は基本介護と入居者に直接触れない間接介護がほとんどを占め、介護する側される側の関係がはっきりしている。

(2)生活行為
趣味・会話・身の回り作業・お手伝いなどの受け身的ではない入居者の行為を「主体的行為」として注目する。従来型・ユニット型ともに、主体的行為が全くなかった入居者は全体の半数に及んだ。ユニットケアの導入が必ずしも主体的行為を促すものとなっていないということが分かる。

(3)生活パターン
入居者全体の滞在場所の時間推移を見ると、従来型とユニット型で大きな差は見られず、施設のタイムスケジュールに強く影響されていることが分かる(図3)。個人の生活パターンを、リビング滞在型・自室滞在型・二拠点滞在型・バランス型の4つに分けると、どちらもリビング滞在型と二拠点滞在型合わせて7割以上を占める(図4)。これらは、スタッフに誘導された場所に長時間端座位するパターンであり、自発的な移動や生活があまり見られないことを示す。

4.考察・提案

改修によりユニットケアを導入したものの、介護にゆとりは生まれず、入居者の生活行為は受け身で、機械的な生活パターンが多いことに変化は見られなかった。入居者自身で生活を組み立てるのが難しい特養において、ハードだけの改修では入居者主役の生活は実現できない。今まで行ってきたケアを変えることの困難さがユニットケアの実現を難しくしているのではないだろうか。かえって小規模になったことにより、生活の範囲が狭まり非常に窮屈な生活になりやすい。施設内で生活が完結してしまうのではなく、外食・買い物・近所の人との挨拶などが当たり前になり、施設の中に自分の居場所が確実に存在して初めて、心地の良いユニットケアが完成するのではないだろうか。

(図1)従来型とユニット型の生活範囲(改修前:47人が集まり、一斉に食事をとる。自室からリビングが遠いため、移動は職員の誘導が必要。改修後:ユニット型は、1ユニットあたり平均10人前後が滞在する。自室からリビングまでの距離が短くなり、自力で往復をすることが目的の一つであるが、職員の誘導に任せる場合が多い。)
(図2)介護の種類別の割合(表)
(図3)滞在場所の割合の時間推移〜従来型・ユニット型(グラフ)
(図4)生活パターンの分類〜従来型・ユニット型(グラフ)



2003-2005, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2005-02-09更新