卒業論文要旨(2006年度)

児童養護施設における子どもの生活と空間の使い方

2006年度卒業論文 空間デザイン研究室 苅部美紀

1.はじめに

 児童養護施設は、さまざまな事情により家族と一緒に生活のできない子どもたちが集団で生活している施設である。近年そのニーズが高まっているが、施設基準の見直しなどは長年行われていない。本研究は、環境向上すべく建替を行った施設を対象に、児童の生活の環境や空間の使い方、他者との関わり方などを調査し、環境変化に伴う影響について考察する。

2.調査内容

 調査対象とした施設では、乳児〜18歳までの児童48人が8人ずつユニット(寮)に分かれて生活を行っている。うち1つの寮を対象として、建替前(11月)と建替後(1月)にそれぞれ、児童(対象児童は小学校低学年男子2名と小学生〜高校生の女子6名)および、職員への聞き取り、寮内での行動観察等を行った。

3.建替の概要

 12月24日に引越が行われた。建替前は、プレハブ2階建て、リビングを挟んで2つの4人部屋からなる(図1)。建替後はRC造2階建てで原則個室(1室のみ2人部屋)となった(図2)。されあにリビングとダイニングを独立させ対面キッチンや浴室がユニット内に設けられ、一般家庭に近い環境が意図されている。

4.調査結果

 平日、下校してから(小学校低学年は14時頃、中高校生は16時頃)就寝する21時半頃までの生活を観察した。基本的に食事、学習、就寝時間などは、施設全体で定められており、食事、学習は施設全体の空間で行われ、その前後の時間を主に寮内で過ごすことになる。建替後、寮の中央にダイニングテーブルができたことにより、自然とみんながそこに集まるようになった。なかにはそこで宿題をする子もいて、上の子が下の子に教えている光景も見られた。

 児童の滞在場所の時間の割合(図3)を見ると、建替前後で大きな変化は見られない。しかし他者との関わり方(図4)についてみると、一人で居る時間も増えたが、寮内でみんなでいる時間も増えていることがわかる。このうち個人の生活(高1女子)に着目してみると、空間の滞在のしかた(図5)や、他者と一緒にいる時間(図6)に変化が見られた。建替前では、自分のベッドの周りに長く滞在し、特定の人と一緒にゲームをしていることが多かったが、建替後では、自分の部屋やリビング、ダイニングを頻繁に行き来し、みんなと一緒にいることが多くなった。

5.まとめ

 建替後、一ヶ月たたずに調査をしたため、前後での大きな変化は見られなかった。少なくとも個室が与えられたからといって子どもが部屋に閉じこもることはなく、むしろリビングでみんなとの時間を大切にするようになったという変化が部分的に見られた。これは個室よりもむしろリビングやダイニングの空間の豊かさが与えた影響といえるかも知れない。今後個室の与える影響についても継続的に見ていくことが課題となるだろう。

(図1)建替前平面図
(図2)建替後平面図
(図3)活動・滞在場所(全員分)(グラフ)
(図4)他者との関わり方(全員分)(グラフ)
(図5)児童Gの時間ごとの動き(グラフ)
(図6)児童Gの他者との関わり方(グラフ)



2003-2007, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2007-02-14更新