卒業研究要旨(2007年度)

好きな場所における人と場所との関わりについて

2007年度卒業研究 空間デザイン研究室 熊谷絵里子

1.はじめに

 部屋は、そこに住む人が反映される空間であり、そこに置いてある物にも全て、その人の意思が反映されている。その中でも『愛着がある』と思う物には、部屋や住人とって特別の意味があるのではないだろうか。愛着のある物が、部屋にもたらす影響について知るために、本研究を行った。

2.調査方法

 女子大生・女子高生の計15人を対象とし、実際に部屋に訪れ、部屋および物に関してヒアリングを行った。また図面作成のため室内の写真を撮影した。

3.結果

(1)愛着のある物と住人との関わり

 愛着のある物がある、と答えたのは15人中10人で、計14種類の物が挙げられた。それを人と物との関わり方の違いから5種類に分類した(表1)。

 まず、嗜好的要因はその人の個人的な好みを反映したもの、趣味的要因はその人の趣味活動を支える物である。直接行為と結びつくかどうかという違いはあるが、いずれもその物の機能や性質に対して人が反応しているものである。

 記憶的要因や継続的要因は、その物の特質というよりも、その物にまつわる想い出や他者との関係、あるいは自分が使い続けてきたことによる価値が加わったものであり、その物自体の唯一性の強いものである。自己行動的要因は、自分自身が手間をかけて物に働きかけた結果得られた物であり、人と物との相互の関わりが強い自分だけの価値と言える。

(2)愛着のある物による居場所の形成

 それぞれの部屋の中における愛着のある物の配置をみると、そのほとんどが、部屋の住人がいつもいる場所に集まっていた(図1)。そうした物は、基本的に住人の意思によってその場所に置かれていたことが分かった。このとき人は、自分のいる場所に愛着のある物を集めることで、そこを自分の特別な場所にしていると考えられる。つまり愛着のある物は、その部屋を単なる空間ではなく、住人にとっての特別な居場所とする働きをしていると言える。

(3)愛着のある物による部屋の意味づけ

 さらに、愛着のある物は、部屋を居場所としてだけでなく、部屋全体を住人の希望や欲求を満たす特別な空間として意味づけていく働きも見られた。それらの物によって自分の部屋が、ある場合は癒しを与える空間として、ある場合は特別な活動のための空間として、ある場合は自分の理想を追求する空間として、特別な意味をもつものとなる。その空間がより「自分らしい」部屋として感じられ、部屋に対する愛着を増す上で重要な働きをしている。

4.まとめ

 愛着のある物は、部屋の中でさまざまに住人と関わり、住人の居場所を作り、部屋に住人独自の意味を与え、それによって、住人にとっての「自分」らしい部屋へと変える重要な要素と考えられる。

(表1)愛着の種類表
 ・嗜好的要因:手触りや色、好きな動物である、などの、住人個人の嗜好が強く反映されて愛着があると判断された物
  …"本、漫画・机と筆記用・人形"
 ・趣味的要因 住人の趣味活動に関する物で、愛着があると判断された物
  …"ぬいぐるみ、壁掛け、置物、クッション、ろうそく"
 ・記憶的要因 誕生日のプレゼントや旅行のお土産など、住人の記憶が付随されることによって愛着があると判断された物
  …"ぬいぐるみ、赤い物、置物、抱き枕、クッション"
 ・継続的要因 長年、あるいは毎日使い続けることによって、愛着があると判断された物
  …"タオルケット、パソコン"
 ・自己行動的要因 住人が手を加えたり、手間をかけたりすることによって、愛着のある物にさらに愛着が湧いたという物
  …"パソコン、バイオリン"
(図1)居場所を作っている例(図面)
 ・愛着のある物に囲まれている例:普段住人がいる場所の周りのみに愛着のある物が配置されている例。住人にとっての居場所を顕著に示している。
 ・二箇所にある例:活動と休息のスペースを二つの居場所を部屋の中で分けている例。どちらにも壁掛けが配置され、同等に扱われているところが特徴的である。



2003-2008, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2008-01-30更新