卒業研究要旨(2007年度)

施設で暮らす子ども達のとっての住環境 〜2つの児童養護施設の比較調査より〜

2007年度卒業研究 空間デザイン研究室 橋本英里香・長谷川理沙

1.はじめに

 児童養護施設の子供たちは、スタッフや他の子供たちと関わりながら、共同生活を営んでいる。本研究では、2カ所の児童養護施設を比較することによって、施設の環境や運営方針の違いが子供たちの生活に与える影響について考察する。

2.調査概要

 10人以内の少人数ユニット(寮)からなる小舎制の2施設(H施設・K施設)を調査対象とした。各寮の建物は、個室・2人部屋および家庭的なリビングダイニングを中心とする構成である。(図1・2)

・H施設:定員48人(8人×6ユニット)。各ユニットは、小学校低学年〜高校生までの縦割りで構成。食事は、全員で施設の食堂に集まって行う。

・K施設:定員50人(10人×5ユニット)。各ユニットは、年齢ごとに分けられる横割りの構成。食事は寮ごとに作り、寮のリビングで行う。

 各施設2カ所ずつの寮を対象とし(表1)、2007年11月〜12月にかけて、放課後〜就寝時間における寮内の観察調査、および児童に対するヒアリング調査を行った。

3.結果と考察

 調査時間における子供たちの居場所や行為、過ごし方の様子(誰といるか)について集計した。各寮による違いはあるものの、施設全体で平均して比較すると、両施設の違いはあまり見られなかった。

 年齢別に、低年齢(幼児〜小3)中年齢(小4〜中2)高年齢(中3〜高3)に分けて比較した。居場所について、K施設では高年齢になるほど自分の部屋ですごす時間が増える(図3)が、H施設では、高年齢でも自分の部屋よりもリビングダイニングですごす時間が長くなる(図4)という差が見られた。過ごし方の様子については(図5・6)、両施設とも低年齢ではスタッフと過ごす時間が長く、高年齢になるにつれその時間が減少するという傾向が見られた。高年齢児の過ごし方には差が見られ、K施設では部屋で1人で過ごす時間が多いのに対し、H施設ではリビングで各々違うことをしながらも誰かと一緒に過ごしていることが多い。子供たちが小さいうちは、スタッフが子ども達との関わりを多く持ち、安心して生活できる生活空間を作り、成長するにつれ少しずつ子供たち自身で組み立てていくという点は共通すると思われるが、結果的に高年齢児の生活の様子に大きな差が現れることとなった。

4.まとめ

 この結果は、子供の成長に対する施設の方針の違いを反映しているのではないか。H施設は、食事を施設全体でとるなど、集団生活の中での社会性や規律・役割を重視するのに対し、K施設では、小集団のまとまりを持たせつつ、個々の生活の確立による自立性を重視しているように思われた。

(表1)調査対象ユニットの人数
(図1)H施設H寮平面図
(図2)K施設Y寮平面図
(図3)K施設における居場所(グラフ)
(図4)H施設における居場所(グラフ)
(図5)K施設における過ごし方の様子(グラフ)
(図6)H施設における過ごし方の様子(グラフ)



2003-2008, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2008-01-30更新