SpaceDesign Labo, JISSEN Univ.
2008年度卒業研究 空間デザイン研究室 酒井千尋
浅草は観光地として多くの人に知られている。メディアでは浅草を舞台にした番組が放送されているのをよく目にする。そこではいわゆる下町といった特色が色濃く描かれているが、実際どうなのだろうか。浅草は知名度がある為にイメージを持たれやすいが、本当の浅草の素顔と課題を明らかにしたい。
2008年６月〜７月にヒアリング(20人)、10月〜12月に、浅草周辺に住む人々を対象に、浅草に関する意識調査(78人)を実施。アンケートでは、浅草の特徴に関する21項目、浅草の満足度に関する20項目、浅草の人に関する13項目、浅草の今後についての11項目について調査した。
「全国的に知られていること(4.4)」「伝統行事が多いこと(4.2)」「人と地域との繋がりが強いこと(3.9)」「住みやすさ(3.9)」に対して満足度が高かった。これら「観光地」「三社祭」「コミュニティ」「生活の場」の視点から関連の得られたコメントを元に浅草を検証する。
浅草は観光地として知名度が高く賑わっている。浅草の人は知名度があることに誇りを持っているようだ。しかし中心部が賑わう一方でその周辺では、かつて盛えた娯楽施設が廃れ、老舗がなくなるなど寂れてきていることが問題視されている。
表1 賑わいに関するコメント
賑わっている ・多くの行事があることにより観光客で賑わっている ・外国人観光客が多い ・土日祝日は活気がある 寂れている ・平日は人がいない ・観光地の周囲は寂れている ・浅草は繁華街だったが娯楽事業が廃れ観光客が主体のまちになってしまった
三社祭は浅草の最も有名な伝統行事である。浅草の人が大好きな行事で地元の人を団結させる役割をも持つ。また外部の人を呼び込みまち全体を盛り上げている。しかしその影響で、祭りの質が変わってきていることに地元住民は不満を感じている。
表2 三社祭に関するコメント
盛り上がる ・子どもからお年寄りまでまち全体で盛り上がる ・お祭り好き よそ者が嫌だ ・よそ者は御輿の上に乗るなどマナーが悪い ・人が集まりすぎて宮出しのとき境内に入れなくなった ・祭りが氏子から離れている
コメントから地域内の交流のよさが伺える。それが地域のイベントや住みやすさを支えている面がある。但しその近さを窮屈に感じている人もおり、外から来た人にとってはその繋がりの中に入り辛い排他的な面も持っている。また外から来てコミュニティに参加しない人も増えおり、人の繋がりが希薄になっていく懸念もある。
表3 コミュニティに関するコメント
繋がりが強い ・近所づきあいがいい ・地域の大人が子どもを見守っている ・仲間意識が強い・人情が厚い ・みんな顔なじみで助け合える 窮屈 ・初めて会った人でも必ず知り合いと繋がっているので余計なことは言わない方がいいと感じる ・噂が広まるのが早い 排他的 ・地元のプライドが高く馴染むまで時間がかかった 参加しない ・外からの人は町会費を払わないなどコミュニティに参加しない
浅草にはコンビニやスーパーなどのチェーン店が増え生活には便利のようだが、さらに利便さを求める意見もある。その一方でそれらの店に押され地元の商売が立ち行かなくなる問題がある。
表4 暮らしやすさに関するコメント
便利 ・コンビニやスーパーがあるので便利 ・松屋デパートは仕事帰りの買い物に便利 ・靴とかモノが安い ・食べ物屋が多い 不便 ・新しく便利なまちになって欲しい ・品物が豊富で買いやすいお店が増えて欲しい・大きな商業ビルが欲しい 商売が難しい ・何でも手に入るスーパーなどが増え専門の小売業が難しい ・スーパーができたことにより商店街に活気がなくなった
昔から浅草は観光地として栄え人情や近所づきあいなどの人の気質も色濃く残り、それに対する満足感や誇りもある。しかしそうした中でも問題点が見出された。観光地としてのイメージは相変わらず高く、外から大勢の人が押しかけてくる一方で昔から地元の人の生活を支えていた文化や店舗は寂れ、地元の人の繋がりの象徴であった三社祭も観光向けに変質しつつある。より生活の便利さを求める声が浅草で暮らす自営業者の生活を圧迫している可能性もある。
かつては一体であった観光地としての外向きの顔と、浅草の人が生活の中で自ら作り出してきた伝統と文化という内面とが次第に分離してきている現れであり、それが浅草らしさを残しつつより発展しようとする際の最大の課題と言えるかもしれない。
2003-2009, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2009-01-22更新