卒業研究要旨(2009年度)

Jiyugaoka Terrace

2009年度卒業研究 空間デザイン研究室 荒木希早加

1.背景と目的

 介護サービスを必要としている高齢者は増加の一途を辿っているが、介護職は慢性的な人材不足であり、離職率が高いことが問題となっている。
 既存の施設では、1つの閉じこもった空間の中で利用者やスタッフ同士の人間関係を築き上げなければならない。そんな環境での過酷な労働によってストレスがたまっていき、そこに仕事を辞めたくなる要因が出来てしまうのではないかと感じた。
 そこで、社会から閉ざされた施設ではない、みんなが働いてみたいと思える介護現場をつくりだすことにした。建築という側面から何か変えていくことはできないだろうか。

2.対象地の概要

【東京都目黒区自由が丘】
東急東横線と東急大井町線が交差し、駅を中心に商業地が広がる。様々に入り組んだ通りに個性的な店が点在し、異国情緒を感じさせる景色が広がっている。
 駅前にある自由が丘デパートは幅広い年齢層を集め、神社や教会などが親しみやすい明るい雰囲気をつくっている。こうった雑多なものが不思議な調和を見せているのが自由が丘の魅力である。

3.制作物の概要

 高齢者が在宅で生活できるよう手助けしていくことを目的として、デイケアをしていく。
 ミニデイサービス、ショートステイ、在宅介護の相談業務という機能をもつことの他に、テナントで入れる一般の店舗、音楽ホール、身体能力の低下した高齢者も利用できるバリアフリー集合住宅、オフィスが入っている複合施設である。

4.建築計画

 1つの空間の中だけにとどまらない様々な動きが生じるよう、複数の空間をつくった。街の雰囲気を壊さないよう、小さなスケールの組み合わせでできている。そのことによってできた通り抜けできる道が、新たな楽しみを生んでいる。
 公園を訪れる親子、店舗・住居・オフィスを入れていくことによって、「介護する人」と「介護される人」という関係に収まらない色々な年代の人たちとの自然な出会いを誘致させる。
 一階から二階、公園から神社、この建築内をぐるぐると回りたくなるように、階段やテラスや橋、魅力的な店舗を設け、そこに行きたくなるような仕掛けをつくった。

5.利用者の動き

 ここを訪れた元気な高齢者は、介護スタッフ事務所前を通り、店舗を見ながらデイケアルームに集まってくる。そこは誰でもが寄れ、開けた中庭に対し楽しい雰囲気を放っている。店舗に吸い寄せられここを訪れた観光客とも顔を合わせることになる。
 送迎バスを利用する介護度の高い高齢者は、エレベーターを利用して2階のデイルームに集まる。ここでも店舗や架けられた橋に吸い寄せられ2階まで上がってきた人たちと顔を合わせる機会があり、高齢者との交流の場となる。
 食事の時間になれば、隣にあるレストランにみんなで出掛ける。高齢者専用ではない一般のレストランで、日常と変わらない環境で楽しく食事をする。
 音楽ホールのイベントやサークル活動をするために、一度外に出てみんなで神社の方まで移動する。
 こうした空間の移動、様々な人との出会いが、介護スタッフにとっても既存の施設とは違ったものになってくる。社会に開かれた明るい介護となった。

(図1)敷地模型 公園側(写真)
(図2)敷地模型 神社側(写真)



2003-2010, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2010-01-25更新