卒業研究要旨(2009年度)

要介護高齢者の生活の主体性を支えるユニットケアに関する研究
〜2カ所の施設環境の違いから〜

2009年度卒業研究 空間デザイン研究室 五十嵐綾・杉浦綾美

1.はじめに

 ユニットケアとは施設内をいくつかのグループに分け、個別のケアに重点を置いて入居者自らの主体性を支えるためのものである。本研究では、環境の違いと入居者それぞれのライフスタイルに着目し、ユニットケアを導入した2カ所の施設を対象として、従来型の施設とは違う個人を尊重した生活が構築されているかを検証していく。

2.対象施設

愛媛県A施設
 平成19年〜 定員50名+ショートステイ20名
 平均要介護度3.14 RC構造平屋建3656m2。
 各ユニットの独立性が高く、庭とのつながりを重視した設計になっている。

千葉県K施設
 平成12年〜 定員50名+ショートステイ7名
 平均要介護度3.76 RC構造 3階建3648m2。
 ユニットケアの先駆的施設で、各ユニットが隣接して、行き来が可能となっている。

3.調査方法

 11月14〜17日A施設、11月21〜24日K施設において、全入居者を把握した上で、午前7時から午後7時までの間15分おきに各入居者の生活の様子を、1分おきにスタッフの行動の様子を記録した。

4.2つの施設にみられる主体性の支え方の違い

 図1・2に、両施設における入居者の1日の生活の例を示した。
 K施設では、Kさんの例に見られるように、隣ユニットに行き来しやすく、行動範囲が広がりやすい。移動した際も自然と隣ユニットのスタッフが見守ってくれるため、自由に行動ができ、他のユニットの入居者とも盛んに行動できる。そうした環境の自由さが一人一人の多様な生活の広がりを促し、入居者の個性が出ていた。
 一方、A施設では、入居者の個性を把握した上でユニットのまとまりを重視した個室配置がなされ、良好な人間関係と主体性を活かせるユニットづくりを試みている。Tさんもそうしたユニットの落ち着いた関係の中でこそ安定した生活が可能となっている。多くの入居者の行動範囲はおおむねユニット内で完結しており、ユニットごとに特徴ある雰囲気の中でそれぞれの生活が営まれていた。

5.まとめ

 両施設では入居者の生活の支え方は異なるものの、それぞれの環境の特性を活用して入居者の意志を尊重した生活が構築されていることが読み取れた。これは入居者の主体性を支えるユニットの空間とスタッフのケアが両立されているからではないだろうか。

(図1)85歳  女性
要介護度2 認知症自立度IIa
自立度が高い。自分の生活パターンを確立していて他の入居者ともコミュニケーションを取る。例えば他のユニットを通過する際に入居者やスタッフに「元気?」や「ごはんしっかり食べなさい。」などと話し掛ける。夕食後は隣のユニットのごみ箱のごみを回収する習慣がある。1日の動きでは自分の部屋で過ごすかユニット外に出掛けたりしている。自分の部屋にいないときは他の階のユニットに自分でエレベーターを利用して遊びに行ったり公衆電話で家族に電話をしたりしている。

(図2)87歳 女性
要介護度2 認知症自立度IIb
基本的に自立した生活を送っている。1日の大半を自分のユニットのリビングで過ごし、仲良し5人組でテレビを観て話しをしている様子から自分のユニットの満足度が高いと言える。他の入居者の面倒をみることもあり、5人組の調和を保っているのもTさんである。A施設では珍しい隣ユニットへ遊びに行って他のユニットの入居者とおしゃべりすることもあり、主体性の高い生活を送っているようだった。



2003-2010, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2010-01-25更新