卒業研究要旨(2009年度)

他者との関わりと居場所からみる小舎制児童養護施設の住環境

2009年度卒業研究 空間デザイン研究室 井内智美・渚恵梨

1.はじめに

 近年児童養護施設では、少人数でユニットを作り生活する小舎制を目指した施設が増えつつある。本研究では、2カ所の小舎制の施設を比較して、他者との関わりと居場所に観点を置き子供の住環境にどのような影響を与えているか考察する。

2.施設概要

(1)全国児童養護施設アンケート
 施設環境・運営に関するアンケートを全国566施設に送付し、218件の回答を得た。

(2)ヒアリング調査、生活観察調査
 下記2カ所の施設の2ユニットずつを対象として15時から20時まで10分ごとに生活の様子を観察・記録した。

3.全国児童養護施設アンケート

 施設形態において小舎制の割合は全体の約15%。小舎制での異年齢の子供を一緒にする縦割り構成が多かった。小舎制にすることのメリットとに子供の気持ちが落ち着く、スタッフとの信頼感が高まる、一人ひとりの子供に目が行き届きやすくなる利点があり、また、個室があることで居場所が確保され落ち着くようになるという回答が多かった。

4.2施設における生活観察調査

 子供の居場所として両施設では自室での滞在時間に大きな差が見られA施設は長時間居るが、B施設は短いことが分かった(図1)。
 施設の中で何人で過ごすかを見ると、両施設とも食事時間に皆で集まる(6人以上)を除くと、A施設では1人でいる時間が長く、B施設では2人〜6人以上まで、様々な形で一緒に居る時間が長い(図2)。また、誰と関わっているかに注目すると、A施設は同年齢の特定の子に限定されているのに対し、B施設では異年齢の子とも関わっていることが分かる(図3)。行為は、A施設では主に食事とテレビに限られており、B施設は会話・遊びなど多様であり、コミュニケーションが豊かに行われている様子がうかがえる(図4)。それぞれの子供のリビングに居るときの行動範囲は、A施設は特定の場所に限定、B施設は複数の場所を選択している結果となった。

 このような結果から、子供にとってA施設のリビングは食事・テレビなど目的を果たすためだけの空間になっている。そこでは、同年代の仲の良い子供同士の小さな固まりはあるが、固まりを超えての関わりはあまり見られない。本来、縦割り構成が目指すと思われる少人数の中での様々な年代の子供同士の関わりが少なく結果的にそれぞれ「個」にこもりがちになっている傾向が見受けられた。
 一方B施設は、リビングの中にもそれぞれの人や時に応じた様々な居場所が得られているようだ。子供にとって人が集まる空間に安心感が生まれ居場所と感じられるのではないだろうか。しかし、リビングと個室の境界線が曖昧になっている印象も否めない。施設を卒業後の自立を考えると公私の空間の使い分けることで子供が「個」を見出していくことも必要ではないだろうか。

5.まとめ

 他者との関わり方と居場所の特徴から、A施設は自分の目的や自立性を重んじ、B施設は協調性や社会性を重視しているように思われた。小舎制児童養護施設はそれぞれ限られた空間ではあるが子供が育ちやすいように、自由な部分と統制される部分をコントロールするバランスを見出しながら生活してくことがよいのではないだろうか。

(図1)子供達の居場所(グラフ)
(図2)一緒にいる人数(グラフ)
(図3)子供通しの関わり(グラフ)
(図4)リビングでの行為(グラフ)



2003-2010, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2010-01-25更新