卒業研究要旨(2009年度)

住環境の変遷と地域とのつながり 〜間取りからみるコミュニティ形成〜

2009年度卒業研究 空間デザイン研究室 佐野香

1. 研究の目的

 新しい住宅やマンションが増え都市が計画される時代になったいまでも、まだ昔ながらの近所関係が残る地域は数多くある。今回の対象地域は、昔からの住まい方や周囲との関わり方が現代の暮らしにも継続されている。伝統的な住まいの形である和室の続き間や縁側が多く残っているということは、間取りがコミュニティ形成に少なからず関係してきたのではないか。相互の関係をみながら、昔ながらの地域だからこそ残っているよさを見つけ価値を見い出していく。

2. 調査概要

 江戸時代以前より存在している土地で、周辺より都市化は見られず比較的農村景観を残している静岡県富士宮市のA地域を対象とする。
 調査内容はアンケート調査(2009年11月に102件配布中、50件分を郵送で回収)とヒアリング調査(2009年9月にA地域住民5人)を実施した。

3. 結果と考察

(1)間取りの継承

 ヒアリングから、建て替えやリフォームを行った後の間取りにハレの空間が確保されている家が多いことが分かった(図1)。アンケートからも、続き間、縁側、茶の間など昔の要素が残る家が多く、50件のうち、41件の家に続き間が存在している(図2)。

(2)生活の中の続き間

 今では車社会だったり冠婚葬祭を家で行うことはなくなったので、家に人々が寄り集まる機会は減っている。しかし、アンケートより、現代でも会合・親戚の集まり・大切な接客・客の寝室として使っている人もいて、昔の使い方を継続していることが分かる。

(3)文化の継承

 少子高齢者や後継者の減少により、昔に比べて地域行事が減ってしまったが、少しながらも行事は地域、家庭で受け継がれている。ひな人形や五月人形を飾るなど続き間がある家のほうが行事を行う割合が高い。どんどん焼きは地域で行う行事の参加に加え、件数は少ないものの、各家庭で続き間にどんどん焼きの繭玉を飾る人もいる。続き間、床の間がある家のほうが文化を継承しようという意識が強いのではないか(図3)。

(4)コミュニティ形成

 50年ほど前までは道を通りかかる人が縁側に座って話をし、続き間では冠婚葬祭や会合を行い、女の人が集まって食事の支度をするなど、家そのものが地域の交流の場となっていた。また、農作業を助け合ったり多くの地域行事を行ったりしていたので、強い仲間意識が昔から存在している。
 現在は昔ほどの濃い近所関係ではなくなったが、挨拶する人は28%、立ち話や家に立ち寄るという関係の人は70%だった。近所の人の接客場所は庭や玄関だけでなく裏口も話す場となっており、外の人と関われる場が多くあることが分かった。

4. まとめ

 間取り自体が今でもコミュニケーションをとる場のひとつになっており、人と人をつなぐ役割が継続している。現代の最新の設備環境や美しい外観だけが大切なのではなく、住環境でのつながりや伝統的な文化を受け継ぐことが地域コミュニティにつながっているのではないか。伝統的な間取りと人々の昔からの意識や感覚が関係して現在の生活環境が成り立っている。

(図1)戦後、建て替え後の間取り
(図2)現在の家にある空間(戸数)
(図3)続き間の有無と行事を行う割合



2003-2010, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2010-01-25更新