卒業研究要旨(2009年度)

団地の建替による環境の変化が暮らしに与える影響 〜多摩平団地から多摩平の森へ〜

2009年度卒業研究 空間デザイン研究室 田村梢・森川知佳

1. 研究の背景、目的

 戦後に建てられた団地は、ハードウェア面での老朽化が進展し、住棟の建て替えが多く行われてきている。近年では高齢化も進み、配偶者に先立たれた一人住まいのお年寄りの問題も出てきている。
 本研究の目的は、地域コミュニティの観点から、団地の建て替えによる環境の変化が暮らしにどのような影響を与えるのかを明らかにしていく。

2. 調査方法

【調査の対象】
・多摩平の森(旧名称: 多摩平団地) 昭和33年竣工。250棟からなり、全2792戸。老朽化による建て替えが平成9年から3期に分けて進み、現在は全1528戸。75歳以上の世帯が約790戸。

【調査の手法】
建て替え前後のコミュニケーションや生活スタイルの変化について多摩平の森に住んでいる35人に話を伺った。(昔の多摩平団地の思い出、近所との付き合い方、現在の住み心地、生活の行動範囲の違いなど)

3. 建て替え前後の変化

(1)深い付き合いから浅い付き合いへ

 建て替え前のコミュニケーションは、お裾分けをしたり、雨が降ると近所の家の洗濯物を取り込んだりなどと、やや深い付き合いをしており、その人たちとは建て替え後も引き続き親密な間柄を保っている。一方、建て替え後知り合った人とのコミュニケーションは、顔見知り、挨拶をする程度などが多く、浅い付き合いをしている。

(2)自然な交流から意識的な交流へ

 昔と今では交流の場が変化している。建て替え前はベランダや庭越しなど家の敷地内で交流出来たことが、建て替え後はエレベーターやロビー、ポスト前など家の外に出ないと交流が出来ないようになっている。出会いの場も変化しており、子どもが幼い頃は学校行事や自治会行事などを通じて出会いがあったが、子どもが成長してからは仕事やサークル、趣味などでの出会いが多い。つまり、昔は自然に近所の人と知り合いになれたが、今は意識して外に出ないと知り合いになれないような環境になっている。

(3)環境の自由度から個人の自由度へ

 建て替え前は自ら増築したり、庭に植物を植えたりなど自由度が高く、住宅に各々の個性が現れていた。積極的に環境に対して手を加える事で土地への愛着に繋がっている。現在は、団地の管理が行き届いており、建て替え前程の住宅における自由さはない。しかし、子どもが成長したことや退職したことにより、自分の時間が持てるようになりサークルや趣味などの行動の自由さが新たに生まれている。

(4)愛着から満足へ

 建て替え前は、人との繋がりなどソフト面での愛着が強かったのに対し、建て替え後は設備や景観などのハード面での満足度が強くなっている。緑に対する愛着は建て替え前後変わらず強く、昔は緑に触れる事で愛着が生まれていたが、今は眺めることによる満足感に変化している。愛着から満足へ視点が高まる一方で愛着が薄れているのではないか。

4. まとめ

 この団地では現在、コミュニケーションが希薄化し、建て替え前のような自由さや愛着も少なくなっている。それは、人の高齢化、子どもの成長、時代の変化などの要因もあるが、建て替えによって環境に対する関わり方が変化したということが大きく暮らしに影響している。建て替えによって環境が充実する一方で、自ずと手を加えることがなくなり、個人と環境とが相互に関わることが少なくなっている。
 長く住むことでコミュニケーションや愛着が生まれる訳ではなく、個人と環境とが相互に関わることによって生まれてくるのではないか。

(表1)コメント表(一部抜粋)
(写真1)多摩平団地(テラスハウス)
(写真2)多摩平の森表



2003-2010, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2010-01-25更新