卒業研究要旨(2009年度)

厚木ニューシティ森の里にみる愛着形成に関する研究

2009年度卒業研究 空間デザイン研究室 山品詠里

1.はじめに

 私の住んでいた厚木ニューシティ森の里は私にとって、愛着のあるふるさとのような街である。森の里のようなニュータウンであっても住人にとってふるさとになっているのだろうか。そして、街に対する愛着はどのように形成されているのだろうか。
 場所愛着は、満足や安定性への期待といった「認知的側面」場所への肯定的感情という「情緒的側面」その場所を維持しようとする「行動的側面」などからなる「人と場所の統合」「個人と場所との感情的絆」と定義されている。(*1)

2. 研究方法

 調査対象は 昭和53年に開発された厚木ニューシティ森の里(図1)。自然環境に優れ、ふるさとになりうる街づくりを目指して作られた地域である。調査は住人9人に対するヒアリング調査及び街に対するアンケート調査を行った。(2009年12月に500枚配布し182枚回収)

3.結果

3-1.全体的傾向

 街に対して全体的に愛着を感じている人が多く、自然や緑、街並に対する満足度が高い。地域のイベントへの参加率も高く、住人同士の交流もそれなりに行われている。

3-2.愛着形成の要素

 愛着に寄与する要素を探るため、愛着が強い人(56人)、ややある人(104人)、あまりない人(18人)に分けて分析した。居住年数や年代で愛着の差はなく、長く住んでいるから愛着が強いというわけではない(図2)。

1)認知的側面:自然や環境の良さ、友人・近所の関係などへの満足度として捉えることにした。個々の項目に関しては、満足度の高さ、愛着の強さには関連が見られなかったが、各項目の数を組合わせた全体的な満足度を見ると、満足度の高い人の方が愛着が強いという結果となった(図3)。

2)情緒的側面:森の里の街や緑を誇りに思う、自分の街だと思う、など感情的な項目によって評価した。多くの項目で愛着の強さとの関連が見出され、愛着が強い人はない人よりも明らかに肯定的な感情を抱いていることが分かる(図4)。

3)行動的側面:イベントや地域活動への参加率や近所との関係、友人の数など、地域との関わりによって評価した。それぞれの項目では愛着の強さによる差は見られなかったが、全体的な関わりの強さとして得点化したところ、若干ではあるが高い人の方が愛着がある(図5)。 特定の活動への参加が街への愛着を高めるとは一概には言えない結果となった。

3-3.ふるさと形成の要素
 約半数の人がふるさとと感じている。ふるさとと思っている人は強い愛着があるが、愛着がそのままふるさとに繋がるわけではないようである。年代別に見るとこの土地で生まれ育った20代や、70代80代など居住歴が長い人がふるさとと感じている割合が高い。また、ふるさとと感じている人は、「自分の街だと思う」「なくてはならない存在になる」「住み続けたい」という人が多い。

4.考察

 森の里において、愛着を形成しているのは、緑や自然環境だけではない。街への誇りや自分の街に思うなどの感情、街に対して全体的に満足すること、友人やイベントの行動レベル全体がそれぞれに関連し、自分の街という感情が芽生えることで、愛着になっていくのだと思う。そして、ふるさとになるには「街に愛着がありその土地に深く関わってきた。」または「その土地に対しての強い思い入れがある。」ということでふるさとになるのだと思う。

(*1)参考文献:朝倉出版「環境心理学」佐古順彦、小西啓史(編) 2007年

(図1)森の里の風景(写真)
(図2)居住年数による愛着(グラフ)
(図3)認知的側面(グラフ)
(図4)情緒的側面(グラフ)
(図5)行動的側面(グラフ)



2003-2010, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2010-01-25更新