卒業研究要旨(2010年度)

商業施設における広場の利用

2010年度卒業研究 空間デザイン研究室 木村友紀

1.はじめに/目的

 多くの商業施設がある中で、“商品”を提供するだけでなく“場”を提供する施設が増えている。その中でも商業施設の広場には場所によって様々な特徴が見られる。広場の特徴をとらえることで訪れる人にとってどのような“場”となり、どのような影響を与えているのか考えていきたい。

2.調査方法

 表に示す3カ所の広場を対象として、利用状況を調査した(表1)。調査は平日と休日の1日ずつ行い、10時〜19時の間15分ごとに利用者の属性や行為を記録した。

3.結果

・利用者層:全体的にどの広場も30〜40代の女性が多いが、丸の内と亀戸では50〜60代の男性も多い。恵比寿では男女共10〜20代が多い。休日では丸の内は10〜20代が増え、亀戸では30〜40代の男性が増えるが、恵比寿は平日との差はほとんどない。
・滞在時間:全体的に30分以内の滞在が多い。亀戸では長くいる人は3時間以上いるが、恵比寿では最大で45分程度と、大きな差がみられた。
・行為:丸の内では平日、飲食、読書など1人の行為が多く、昼食時にサラリーマンやOLが飲食やボーっとするという行為が多くみられた。亀戸では子供の世話や会話が多く、主婦同士で集まる様子がうかがえ、近所の人と偶然会い立ち話をする様子も見受けられた。また滞在時間が長い人は新聞を読んだり、食事をしたりと様々な行為を行っていた。恵比寿は一人できて飲食をすませて広場を出て行くという感じであった。休日になると丸の内と恵比寿は会話が多くなる。
・グループ:平日はどの施設も一人で来る人が多く見受けられた。休日になると丸の内では友達やカップルが増え亀戸では子連れ、家族が多くなる。恵比寿はカップルが多く訪れている。

4.考察

 3カ所の広場はそれぞれ違う使われ方をしており、それぞれの特徴が見出された。
 丸の内は、話題性があり人々の関心をよぶ都市景観から、休日は観光客も多く訪れる。平日は働く人の世代が多く集まり休憩時に利用する姿が多く見られた。昼食やボーっとするという行為から働く人にとって日常的に使われている雰囲気が感じられた。高層ビルが多く建ち並ぶ周辺環境とは対照的な、都市的な刺激が入り込まない、緑にあふれた環境で働く人にとって日常から少し離れ、息抜きのできる居場所となっているのではないか。
 亀戸には大きく開けた広場に子供の遊具が多く置かれていて、広場全体を遊び回る子供の姿が見られた。子連れの母親達は子供を遊ばせながら近所の人と交流を楽しめる居場所となっている。公園とは違う賑やかさがあり、一日いても飽きない環境であることから、長時間居ても家のように過ごす居心地の良い居場所になっているのではないか。
 恵比寿では、16時以降から人が集まり始め夜景を楽しむ人が多かった。イベントの際には人が集まるが、その他は滞在時間の短さからほとんどの人がふと立ち寄って利用する人が多い傾向があると感じた。広場に日常生活への目的というものはなく、娯楽としての目的で訪れていると感じる。恵比寿は居場所としての期待はないのではないか。

5.まとめ

 広場の役割として都市の中心となり訪れる人にとって居場所を与えていくことで日常生活に豊かさを与えてくれている。都市の中心となる広場は、一息つけることや人との関わりを持てる都市の中での居場所として“場”を提供する環境づくりが必要なのではないか。

(表1)調査対象地の概要
 丸の内ブリックスクエア
  敷地面積:45m×40.5m、オープン日:2009.4、周辺環境:オフィス
  広場の特徴:緑が多く、あらゆるところにベンチが配置されている。座る場所によって違う雰囲気を感じられる。
  調査日:10月16日 11月2日

 サンストリート亀戸
  敷地面積:30m×57m、オープン日:1997.11、周辺環境:住宅地、学校
  広場の特徴:ステージや子供の遊具が置かれていて、全体的に開かれた空間。
  調査日:11月4・7日

 恵比寿ガーデンプレイス
  敷地面積:36m×30m、オープン日:1994.10、周辺環境:オフィス、ホテル
  広場の特徴:地上から少し低い場所につくられ、イベントごとに広場が変わる。
  調査日:11月13・24日



2003-2011, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2011-01-28更新