卒業研究要旨(2010年度)

保育園の環境と子供の遊び場面に関する研究

2010年度卒業研究 空間デザイン研究室 篠田愛

1.目的

 子供が主体となって遊べるような環境づくりを行っている2つの保育園がある。先生は子供の遊びに直接関わらず見守る保育を目指している。この2園を対象として、空間の作り方や、遊びや集まりの場面に注目し子供たちにとっての保育園環境の意味を考察する。

2.方法

 表1のS園、K園を対象施設として、2日ずつ行動観察調査を行った。10分おきに子供のいる場所・行為・子供同士の関わり・環境の使い方等を記録した。

3.結果

(1)遊び場

 面観察された子供の遊び場面を、子供同士の関わりや場所、物との関わり方の違いから分析し、9種類に分類した(表2)。この分類を用いて、両園でみられた遊び場面の特徴をみる。  S園では、遊び方の決まった遊具や玩具を使って個別または集団で遊ぶ場面が多い。物の種類によって遊びが特定され、子供たち自身が遊びを工夫したり、新たな遊びに展開することは少ない。  K園では、S園に比べ獲得する遊びや空間を見つけて遊ぶ場面が多い。自分で場所を獲得したり、様々な道具を作り出すことで、そこから次の遊びに展開していく場面も多く見られた。

(2)集まりの場面

 表3の「仲間で集まる」「設定された集まり」「何となく集まる」の3点から子供の集まる場面を分析した。  S園の集まりは物を介して形成され固定的なグループになりがちなのに対し、K園では場所を介して形成され場所ごとに様々なグループが出現する。K園では、そこにいることが保障された場所、誰でもいつでも受け入れられる場所、自ら獲得する場所など、多様な居場所がある。

4.まとめ

 似た保育方針の2園だが、比較すると遊び活動の場面、集まりの場面ともに大きな差が見られた。子供の様々な活動を誘発する為の環境を充実させる事は重要であるが、充実に作りすぎてしまう事は、逆に遊びを限定しかねないのではないか。また、「物」の多様性は必ずしも遊びの多様性に繋がるわけではない。遊び方を限定していない「場所」の多様性をいかに作るかが子供が主体となり遊べるような環境ではないか。

(表1)調査対象保育園の概要
S保育園
調査日:11月19,22日
対象:3〜5歳児(計55人)
特徴:3〜5歳児を一緒とし、コーナーを設えた空間で自ら選択し行動できるような環境を目指している。

K保育園
調査日:12月2,3日
対象:3〜5歳児(約120人)
特徴:園庭が特徴的であり、ツリーハウスなどの樹木を生かした手作りの遊具が設けられている。

(表2)遊び場面の分類
・1対1で行う遊ぶ 物・道具を使い一人で遊ぶ(パズル遊び)
・集まり遊ぶ(1)(物・道具を使用した遊び) 物・道具を使い集まり遊ぶ(ボール遊び)
・集まり遊ぶ(2)(物・道具を使用しない遊び) 物・道具は使わず集まり遊ぶ(おにごっこ)
・空間を共有した遊び 同じ空間を利用し、お互い交流をしながら、一人ひとり遊ぶ(コマ遊び)
・大人と遊ぶ 子供が受身となり、大人と遊ぶ・学ぶ(本の読み聞かせ)
・獲得する遊び(1) 子どもたちの工夫により次の遊びに展開が期待される遊び(製作)
・獲得する遊び(2) 身体の発展と、工夫により次の遊びに展開が期待される遊び(木登り)
・空間を見つけ遊ぶ 自分たちで空間を見つけ、工夫して遊ぶ(ハンモック)
・遊びの展開獲得する遊び (1)(2)により展開された遊び(ちゃんばら)

(表3)集まりの場面
<仲間で集まる>
 (S保育園)トランプ遊びの様に複雑なルールを理解する仲間の集まりであり、物が中心となる集まり。
 (K保育園)自分たちだけでいられる隠れ家での集まりなど、空間や場所の質が重要となる集まり。
<設定された集まり>
 (S保育園)クラスがないのでコーナを使用し、直接床に座る。自分の場所としてきちんと与えられ保障された場所がない。
 (K保育園)年齢別のクラスで自分で椅子を持って集まる。きちんと与えられ保障された場所がある。
<何となく集まる>
 (S保育園)同じ机に座っていても対面に位置取り顔を合わせることなく、各自自分一人の世界にいる。関わりは希薄である。
 (K保育園)友達同士ではないが、何となく集まれる空間がある。顔が向き合っているので一緒に作業したり交流が生まれる。



2003-2011, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2011-01-28更新