卒業研究要旨(2010年度)

児童養護施設の空間構成が子供の生活に及ぼす影響

2010年度卒業研究 空間デザイン研究室 高木彩花・前田未樹

1.はじめに

児童養護施設とは何らかの理由で家庭での生活が困難な子供を支援する施設である。本論では子供の成長に伴うテリトリー形成という視点から児童養護施設の空間が及ぼす影響面に注目する。現在の日本は大舎制施設が大半で簡単には建直しができない現状である。グループホームから大舎制を見つめることで大舎制施設のテリトリー形成について考える。

2.調査方法

 表1に挙げる2カ所大舎制施設(A・B)及びグループホーム(C)を対象として、行動観察調査と子供たちに対するヒアリング調査を行った。

3.結果・分析

(1)グループホームについて

 グループホームはこれからの施設で目指すべき生活環境だとされている。まずこうしたグループホーム(C施設)におけるテリトリー形成の様子を概観する。低年齢では共有空間が生活の中心で、自分一人になって主体的に行動できる空間(Pri)と他学年との関わりによって社会性を身につける空間(S-Pub)とはあまり区別されない。中年齢では行為によって空間を使い分けPriが確立しS-Pubが区別されるようになる。高年齢になるとPri、S-Pubの確立に加え施設外での行動が多く社会(Pub)へと領域の広がりが見られた。とくに共用空間にスタッフが常駐することで、S-Pubが安心できて帰属性を感じる領域となっていた。

(2)大舎について

 A・B2施設において共通していることは、PriとS-Pubの未分離な低年齢から成長するに従い、次第に一人になれる空間としてPriが確立されていくことである。しかし、共用空間におけるテリトリー形成は中・高年齢にあがるにつれて施設ごとに違いが見られた。

・A施設

 共有空間は全員で共有するというより、年齢ごとに時間をずらして使っている傾向が強く、そこでの他学年との関わりは希薄である。自室や共用空間を使い分けているが、いずれも同じメンバーでの行動が中心となり共有空間がS-Pub的役割を担っているとは言えない。施設の空間構成が、寝室、プレイルーム、食堂など機能ごとに配置されていることが影響していると思われる。

・B施設

 少人数のユニットに分けられたB施設では、ユニットによって特徴が見られた。共有空間が異年齢の子供達に共有され、自分たちのS-Pubとしてテリトリーが形成されているユニットがある一方、一部の子供のPriとして占有されてしまい、S-Pubとしての意味が希薄なユニットもあった。ユニットでのスタッフの関わりは多くなく、小規模にすることで子供の個性の影響が大きく現れてしまったと考えられる。

4.まとめ

 大舎制施設ではその空間構成が子供達のテリトリー形成により大きく影響している。A施設のように空間を機能ごとに分けた構成では年齢ごとの行動がパターン化し、S-Pubのテリトリー形成がされづらい。B施設のように規模を小さくし共有することはテリトリー形成に作用したが、スタッフが常駐していないことでユニットによる差が大きく表れた。さらに、いずれも社会との接点が希薄であることも課題と思われる。

(図1)行動・場所の割合(グラフ)
(表1)施設概要・モデル図
A施設(女子寮)
・大舎 ・縦割り
・従来の大舎で、空間が機能(食事、テレビ、勉強、など)ごとわかれている。
・職員は基本2人
B施設(女子寮)
・大舎 ・縦割り
・大舎だが小規模のユニットに分かれていて生活している(1ユニット5~6人)。
・職員は基本2人
C施設(女子寮)
・グループホーム ・縦割り
・一般住宅を利用し住宅街にある。中学生から個室が与えられる
・職員は基本2人



2003-2011, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2011-01-28更新