卒業研究要旨(2011年度)

軽度自閉症児とその親が求める住環境

2011年度卒業研究 空間デザイン研究室 今林玲奈

1.はじめに

 現在、身体障がい者や高齢者向けの住環境としてバリアフリー整備が一般化している一方、知的障がい者に対しての住環境整備はまだまだ不十分である。 自閉症※1に対しては環境の「構造化※2」という概念が浸透し始めているが、その対象は重度自閉症児向けであり、軽度自閉症児への対応は目が行き届いていないのが現状である。そこで「軽度自閉症児」の過ごしやすい住環境を見出すことを目的とする。

2.研究方法

 調査対象は自ら参加している障がい児ボランティア「青空汽車ぽっぽ」で出会った6歳〜18歳の軽度自閉症児とし、最も身近な存在の母親の協力を得て表1の調査を行った。

3.結果と考察

(1)軽度自閉症児の現状

 軽度自閉症児の中には、健常児に極めて近い子もいる一方、ジャンプをする、大声を出すなどの「こだわり行動※3」の見られる子もいた。生活自立行為では、服装を自分で選べない、学校の準備ができないなどの回答も見られた。住環境整備に関しては、子どもが使う物は決まった場所に置く、遊びの空間・食事の空間のように空間の用途を明確に定めるなど、環境を構造化しようとする例もあげられた。しかし、こうした状況は全員一律に適用されるわけでなく、その子の行動や生活自立行為に合わせて住環境整備を行うことが重要であることがわかった。

(2)環境上の課題

 軽度の場合、1人で外出することも多く、住宅環境だけではなく、外部環境での課題も大きいことがわかった。そこで住宅環境および外部環境について現状から着目される問題点、親の対応、今後の課題、を表2のようにまとめてみると「社会的バリア」と「物理的バリア」の2点を解消することが課題になって来ると考えられる。

(3)レベル別による自立目標

 軽度自閉症児の中にも幅があり、「こだわり行動」と生活自立行為を基準にし、準健常(健常者に近い軽度)、軽度、準重度(重度に近い軽度)の3つのレベルに分けた。その結果、各レベルで現状が異なるため自立目標も異なることを見出した(表3)。

4.まとめ

 軽度自閉症児にとって過ごしやすい住環境とは、子どもたちの将来のために自立目標を達成できる環境があることである。そのためには障がい者がわたしたち健常者をめざす社会環境だけでなく、わたしたちが障がい者を受け入れ向き合う社会環境を作って行かなければならない。

※1自閉症とは…「社会性」「コミュニケーション」「想像力」の3領域が欠けている障がいのことを言う。
※2構造化とは…「いつ」「どこで」「何を」「どのようなやり方で」などの情報を視覚的に伝えること。
※3こだわり行動とは…1人ひとりそれぞれ自分なりのルールを決めて行動すること。自閉症者にとっては自分の気持ちを落ち着かせるための1つの手段である。

(表1)調査概要
(表2)環境上の課題
(表3)レベル別による自立目標



2003-2012, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2012-01-29更新