卒業研究要旨(2011年度)

コミュニティガーデンにおける多様性と可能性

2011年度卒業研究 空間デザイン研究室 井上枝利子

1.はじめに

 本研究では、コミュニティガーデンの活動の実態を調査し、コミュニティガーデンがどのような効果をもたらしているのか、参加する市民の交流や意識などについて着目する。参加者からの視点からコミュニティガーデンがもたらす影響について調べる事で、これからの日本でのコミュニティガーデンの価値や可能性を見出していきたい。

2.調査方法

 表1の2カ所のコミュニティガーデンを対象として、活動に参加しながら、参加者及び活動を支援する市役所からヒアリング調査を行った。

3.日本における可能性

 調査した両場所からはそれぞれ特徴ある結果が出てきたが、ここでは共通する部分からコミュニティガーデンの可能性と課題を探る。

3-1.高齢者の活躍の場

 参加者の年齢層や人数にばらつきはあるものの、それぞれ高齢者の参加者が多かった。深谷市では、定年退職したボランティア達が、今までに培った技術を生かして土地の整備から水車小屋の設計まで行い、足立区では豊富な花の知識を持った人が中心となって活動していた。以上から、コミュニティガーデンには高齢者の新たな活動の場としての可能性がある。
 しかし、どの調査地でも認知度の低さなどの理由から、持続して活動する為にいかに新しい人を引き込むのかが今後の大きな課題だという意見があった。いかに上手くコミュニティガーデンの魅力を感じさせるのか、周囲への関わりも考慮する必要がある。

3-2.新たなまちの居場所

 深谷市では、年齢・性別関係なく和気あいあいとした仲間同士の雑談が楽しいという人や、稼ぐのとは違う活動に魅力を感じて通っている人、足立区のように気兼ねなく自由に時間を過ごせる公共の庭に魅力を感じて通っている人と、それぞれの人がコミュニティガーデンに魅力を感じて通っていた。コミュニティガーデンには気軽に自分の時間を過ごせる新たなまちの居場所としての可能性がある。
 また、両場所とも居心地の良さを感じる要因の一つとして、その場所に常に居て、周りを指導していく人物が居る事が重要だと分かった。参加者がいつでもその場所での中心となる人物との関わりを持てるようにする事が居場所としての質を高めるのだろう。

3-3.社会貢献活動に気軽に参加出来る場

 深谷市では自分たちの為ではなく、訪れる人の為に土地をつくっていく事にやりがいを感じている人や、足立区では自然溢れる子供たちの遊び場であったり、小学校の授業の一環として利用したりするなど、社会貢献出来る事を魅力としてあげている人が多かった。ボランティアや社会貢献と聞くと、敷居が高いように感じられるが、コミュニティガーデンは気軽に参加でき、公共の場として地域との繋がりを感じられる事が特徴だといえる。
 しかし、地域に開けた公共の場としてある為に、参加者のみの居場所であってはならない。魅力もそこで活動している人のみが感じられるのではなく、外から来る人にも感じられるものである必要がある。

4.まとめ

 アメリカではコミュニティガーデンは社会に浸透し、非営利の団体のサポートがあり、専門家のノウハウを生かしたビジネス的な要因を持ったものが数多くある。日本ではまだそのような明確な目的をもった体制のものは少なく、それだけに多様な活動が展開されている。
 本研究で見出された、高齢者に大きな力を発揮してもらう場の提供や、希薄になりつつある近隣の住民とを繋ぐ新たな 居場所づくりなどは、少子高齢化社会の現代において日本ならではの可能性と言えるのではないのだろうか。

(表1)調査地概要
・足立区「地域の庭」
敷地面積:1040m2
参加者:5人程度
発足日:2010年4月
特徴:余剰地を、地元住民の為の庭として活用してもらう為、住民が委託業者と共に土地整備を行っていく。除草や、種まき、花摘みなどが中心。庭で作ったものを利用したワークショップもある。
調査日:10月14・16日、11月4・16・18・20日

・深谷市「ふかや緑の王国」
敷地面積:48000m2
参加者:ボランティア登録のみも含め200人程度
発足日2008年6月
特徴:二年間放置された県の園芸研究所を有効活用するため、市民ボランティアが中心となり、除草や植栽などの土地の整備や、イベントを開催している。
調査日:10月13・16日、11月5・8・19日、1月12日



2003-2012, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2012-01-29更新