卒業研究要旨(2011年度)

野毛商店街の居心地について

2011年度卒業研究 空間デザイン研究室 金 叶

1.はじめに

 横浜市中区の野毛町一帯は、狭い路地に飲食店を中心とする様々な店が連なる、神奈川でも有数の商店街である。かつて繁華街として栄えながらもその後低迷し、昔の闇市の印象を払拭して活性化を図るまちづくりが模索されている。本研究では、野毛でしか生み出せない居心地の良さや居場所があると考え、商店街を構成する店の視点から、その魅力や可能性について考察する。

2.方法

 野毛商店街を対象として、町内会活動の見学、大道芸などのイベントへの参加、町づくり会の会長への聞き取りを行いながら、各店舗に赴いて店主(8人)・常連(4人)に対するヒアリングを実施した。これらの調査より得られたヒアリングコメント、および地元で入手した地域文献に掲載された店主のコメントをデータとして分析を行った。

3.考察・まとめ

(1)変わらないものと変わるもの

 野毛の一つの特徴は「変わらない」ことにある。野毛は横浜の下町であり、昭和の面影を色濃く残している。野毛に根付く住人は、この街は何よりも人情を感じられることが魅力だと言う。そうした暖かさや懐かしさ、時には怪しさや怖さを含んだ、昔ながらのイメージが「野毛らしさ」にはある。
 その一方で、野毛は日々進化し「変わっている」。みなとみらいの開発により環境は大きく変わり、街並みも変容しつつある。新規事業者が積極的に参入し、新たな客層を集めている。最近では大学と連携し、まちづくり活動を通して若い人が入り込んでいる。変化を嘆く声もあるが、新しいものを取り込んでいくオープンなイメージがそこにはある。

(2)両者をつなぐ「店」の存在

 野毛は歴史的に港町として存在し、積極的に新しいものを取り入れ、昔からあるものと融合していく文化があったと考えられる。いろんな人や個性が集まる雑多性、新参者を受け入れる懐の深さがある。
 こうした街の特性は、ただ歴史的に自然に培われたものではなく、野毛商店街を構成する多様な店の存在によって支えられていることが見出された。

・個性で呼び込む

 野毛には、店主の個性の際立つ多様な店がある。地元の住人の溜まり場から、若い人や多国籍な人を受け入れる店まで、結果として多様な人が野毛には呼び込まれている。

・場所でつなぐ

 年代・職種・国籍を問わず多様な人の集まる場所、気軽な居心地のいい場所を目指す店も多い。常連と一見を区別せずに対等に扱うことを重視する店もある。店は多くの人の居場所を提供し、立場の異なる人が自然な形で場所を共有する機会となっている。

・人でつなぐ

 野毛には、客とのコミュニケーションを大事にする店が多い。単なる飲食店ではなく、何でも相談できる場所であり、もう一つのわが家でもある。一見の客もすぐに顔を覚えてもらえる。さらに客同士も関わりをもち、触れ合う場所ともなっている。

・「野毛っ子」として街をつなぐ

 店主同士の関わりも強く、地域に根付いた「野毛っ子」として、積極的に新しい野毛を作っていこうと活動している。地元の町内会や外部の大学などと連携し、まちづくり会を構成し、さまざまなイベントを行うなどして、多くの人を呼び込んでいる。それは、「変わるもの」と「変わらないもの」との共存・融合という野毛ならではの特性を、より高め際立たせていこうとする動きでもあるだろう。

(図1)野毛の魅力を支える構造



2003-2012, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2012-01-29更新