卒業研究要旨(2011年度)

保育園の環境が園児の遊び行動に及ぼす影響

2011年度卒業研究 空間デザイン研究室 相野谷幸江・岩富 碧

1.はじめに

 子供の自発的な活動を重視する2つの保育園を対象にして、環境と園児の遊びの関わりに注目することで、環境の及ぼす影響について考察する。

2.調査概要

 表1の2カ所の保育園を対象として、行動観察調査を行った。子供のいる場所・行為・園児同士の関わり等を10分おきに調査用紙に記録した。うち1日分(9〜17時)について、K園886場面、W園274場面の遊び場面を抽出した。

3.結果

3-1.K園

 同年齢同士での遊びが多く、異年齢の関わりはそれほど多くはない(表2)。年齢による遊びの違いが大きな特徴で、高年齢ほど遊びの種類が増加するとともに、より複雑な遊びが行われるようになる。低年齢では与えられた遊び場で遊んでいるが、中年齢では自分たちの遊びに適した場所で遊ぶようになり、遊ぶ範囲も広がっていく。高年齢になるとお気に入りの場所やちょっと隠れられる場所、より挑戦的な遊びのできる場所など、さまざまな場所を自分で見つけていく。遊び方も、低年齢では一人ずつがシンプルな遊びを行う場面が多いのに対し、高年齢では仲良しグループでの遊びが増え、自分たちでルールを作ったり役割分担をするような、複雑で社会的な遊びへと展開していく。さらに、自分たちで道具を工作し、それを使って新たな遊びが発生するなど、創造性も高まっていく。
 きめ細かく作り込まれた園庭の環境には、園児の多様な遊びをもたらすきっかけが豊富に埋め込まれている。園児は成長とともに次第にそれらを使いこなすようになり、より豊かな遊びへと発展させていく。

3-2.W園

 全体に少人数なこともあり、K園に比べ異年齢での遊びの割合が多い(表2)。数値では捉えにくいW園でみられた遊びの特徴をあげてみる。(1)毎日行く場所が変わるので、その都度遊びが変わる。自然から人工物まで、目に付いた物・道具・環境を何ても活用して遊んでおり、子供達が環境の中から遊びを発見している。(2)ある遊びが異なる遊びへと変化し、次々と遊びが連鎖するように展開していく。低年齢児の始めた遊びに高年齢児も加わり、より複雑な遊びへと発展させていく場面が見られた(表4)。(3)異年齢児が同じ場所で同じ遊びをしていながら、それぞれの年齢に応じた遊び方を行っている。高年齢児は成長によって、より複雑で挑戦的な遊びをするようになるが、その場に低年齢も一緒に遊ぶことで、少しずつ低年齢児に影響が与えられていく。
 通常の外部環境は遊び場として作られているわけではないが、そうした環境から「遊び」を発見し展開していく創造性や柔軟性を、園児に見ることができる。おそらく日常的にこうした環境で遊ぶ経験に加え、異年齢の関わりによって低年齢時が高年齢児から学ぶことで身につく能力もあるのではないかと思われる。

4.まとめ

 2カ所の保育園は、規模も環境も大きく異なり、遊び方の様態も異なるものであるが、環境との関わりにおいては共通点が見られる。どちらも遊びは外から与えられるものではなく、環境の中から園児が自分で見つけ、成長に応じてより多様で複雑な、創造的・社会的・挑戦的な遊びへと自ら発展させている。それぞれの環境との豊かな関わりによって、園児の発達が促されていると言えるのではないか。

(表1)調査対象概要
・K保育園
 調査日:2011.11.7〜9
 調査対象園児数: 0 歳:6、 1 歳:16 2 歳:19、3 歳:34 4 歳:57、5 歳:47
 特徴:多くの樹木が目を引く 園庭には、それらを活 用した身体的な遊具が 数多く設置され、園児 はほぼ一日中園庭で過 ごしている。
・W保育園
 調査日:2011.11.15〜17
 特徴:小規模で家庭的な保育 園で園庭はなく、園児 たちは皆で毎日外へで かけ、公園や森など、 その日によって異なる 場所で遊ぶ。
(表2)年齢による遊び場面
(表3)K園における園児と場所との関わり
(表4)W園における遊びの展開場面



2003-2012, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2012-01-29更新