卒業研究要旨(2012年度)

特別養護老人ホームの生活単位と暮らし 〜従来型とユニット型から見えてくるもの〜

2012年度卒業研究 空間デザイン研究室 遠藤椋子・岡田舞

1.はじめに

 現在、特別養護老人ホームでは、集団ケアを行う従来型の施設から1ユニット10〜15人程度の少人数を対象に細やかなケアを行うユニット型の施設へと移行しつつある。本研究では、従来型とユニット型の比較からユニット型のメリットを再確認するとともに、ユニット型の課題を見出す事を目的とする。

2.調査概要

 同一法人の運営するN施設(従来型)とM施設(ユニット型)を対象に、入居者の生活調査とスタッフの追跡調査を行った(表1)。入居者の要介護度を表2に示し、施設概要を表3に示す。

3.従来型との比較からみたユニット型のメリット

 入居者の生活を比べると、従来型では食堂で無為に過ごしている人が多いのに対し、ユニット型では自室で過ごす人が多く無為はあまりみられない。食事の時間は従来型よりもユニット型ではばらつきが多く、入居者のペースに合わせて行われている(図1,2)。入居者とスタッフの関わりもユニット型の方が多くみられ、スタッフも単なる声掛けに留まらず意思疎通を汲み取ろうとする関わりがみられた(図3)。全体的に従来型と比べユニット型の方が、入居者の意志が尊重され、生き生きと生活している様子がうかがえた。

4.ユニット型にみえてきた課題

 ユニットごとに比較すると生活の時間配分の違いやスタッフの関わり方に違いがみられた。これはユニットごとの個性の現れとも考えられるが、ユニット間での連携が少なく介護の質に差がある可能性がある。またユニット内でスタッフと入居者の距離が近い故に、スタッフ同士の事務作業が入居者の生活に影響を与えている場面もみられた(図4)。入居者の生活は、ユニット外に出ることはほとんどない。ユニット内でも部屋に居る時間が長く、生活が内へと閉じこもり気味になってしまっている(図1)。現状ではリビングが殺風景であり、入居者が居場所を見つけられていない可能性がある。ユニット型施設にも、入居者・スタッフの両者にとって改善されるべき課題が見出された。

(表1)調査内容
(表2)対象者要介護度
(表3)調査対象施設
N施設(従来型):
平成4年開設の従来型施設。基本的に4人部屋で、各階50人が食堂で一斉に食事する。敷地の形状から各階L字型の構造となっており、長い廊下では入居者がリハビリをしたり窓からの景色を眺めたりしている。
M施設(ユニット型):
平成24年開設のユニット型施設。10人ごとの独立した小規模生活単位が各階2ユニットずつあり、それぞれ個室がダイニングを囲む配置となっている。食事、入浴など、基本的に生活はユニット内で完結している。
(図1)入居者の滞在場所(グラフ)
(図2)入居者の行為の時間的変化(グラフ)
(図3)スタッフの声かけの質(グラフ)
(図4)スタッフの仕事場所(グラフ)



2003-2013, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2013-01-23更新