卒業研究要旨(2012年度)

さかうえさかした 〜 千駄木シェアハウスの提案 〜

2012年度卒業研究 空間デザイン研究室 飯島友加里

1.はじめに

 東京の下町として有名な谷中、根津、千駄木は、歴史と情緒溢れる街であり、「谷根千」という愛称でも多くの人々に親しまれている。またこの周辺は数多くの坂が存在することでも有名である。
 その中の文京区千駄木に位置する団子坂は本郷と谷中を繋ぐ坂であるが、坂下には不忍通りがあり、激しい交通量と道の両側にそびえ建つ高層ビルによって、かつての街の魅力だけでなく、そこで暮らす人も、そこでの物語も失われつつある。この現状をふまえ、昔からここに住む人々や、谷根千に魅力を感じて住みたいと思った人々、そして観光客など、多くの人々が豊かなコミュニケーションを交わすことのできる居場所としたシェアハウスを提案する。これによって団子坂の魅力を取り戻すと共に、昔ながらの良さと新しさを兼ね備えた、千駄木の新たな文化や魅力が生まれる場所を創りだしたい。

2.対象敷地

対象敷地:東京都文京区千駄木2丁目と3丁目に位置する団子坂周辺。坂上と坂下、坂の中間地点の3カ所に点在する形で計画する。
敷地面積:坂下258.5m2、中間404m2、坂上453m2

3.計画

〈坂の傾斜と3つの異なるシェアハウス〉
 昔、坂下では長屋があったように建物が密集している上、人間関係も密接であった。一方、坂上では武家屋敷が多く、坂下に比べると個々を貴重にするような慣習だったようだ。現状としても、坂下が駅やビルが建ち賑やかな雰囲気であり、坂上は戸建て住宅などが多い。坂上と坂下での街の雰囲気の違いを利用し傾斜の低い地点では、住人同士の共有する部分を増やし、住人だけではなく街に開いた空間とする。一方、傾斜の高い地点では個々の時間を大切にできるような空間構成を主とする。

(1)坂下のシェアハウス

 敷地にもともと存在する不動産屋を残し、観光案内所を併設する。不動産屋が3つのシェアハウスを管理することでシェアハウスの秩序も保たれる。住戸の1階部分にはピロティを設け、そこでフリーマーケットが行われたり、ワークショップが開かれたりする。2階からは縦に伸びる長屋のようなイメージで階段状に空間を設け1段ごとに異なる使い方ができる。

(2)中間のシェアハウス

 1階を柱だけの空間でワンルーム、2階が壁と段差で変化をつけた距離を選択できる居場所、3階が箱形の個室というように考え、階を上がるにつれて空間が表情を変えていく。またレンタルサイクルを設け、住人だけでなく坂を行き交う人々にも貸し出すことで新しい出会いが生まれる。

(3)坂上のシェアハウス

 各住戸は箱型で独立しているが、ゴミまでシェアしてしまおうという考えで、敷地に畑を設け生ゴミから野菜を育てることで住人同士に仲間意識が生まれる。時には収穫祭を開いたり、パーティを開いたり、道行く人も巻き込んで楽しいことが始まる。

4.結果

 3つの異なるシェアハウスが住人や坂を行き交う人々のあらゆるコミュニケーション場となり、さかした、さかうえ、坂のあちらこちらで楽しい事が始まる。それぞれの距離感で、様々な境遇の人々が集う居場所。千駄木シェアハウスを中心として、ここから新たな出会いや新たな文化、魅力が生まれる。

(図1)模型写真(写真)



2003-2013, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2013-01-23更新