卒業研究要旨(2012年度)

丘に住まい、谷に集う。

2012年度卒業研究 空間デザイン研究室 岩谷翠

1.背景目的

 壁や塀によって四方が閉ざされた家。機械にばかり頼り、気候風土を無視した家。ご近所付き合いが希薄化された暮らし。自ら体験しモノを得ることから離れた生活…。
 周囲との関係を遮断した“暮らし”は内へ内へと閉じこもってきた。近年の家は、それぞれが交り合うことも、干渉し合うことも忘れたかのように孤立した「箱」。
 家=箱という概念を壊し、開かれた暮らしへ。

2.計画提案

一つの「はこ」から始まる暮らし。

 しかし、「はこ」にとどまらない暮らし。
 開かれた暮らしをつくるために機能や居場所をばらして配置する。完全に閉ざされた空間は一人ひとつの「はこ」のみ(2200×2700)。ひとり、ふたり、家族、友達とシェアなど多様な住まい方ができる。そこへでこぼこのパネルを組み合わせ、階段や橋をかけわたす。更に屋根を坂として利用する。その屋根が折り重なり空間が倍増する。「はこ」以外に生まれた空間は、一人でぼーっとできる場所、わいわいパーティーができる場所、家族でゆっくり食事ができる場所、眺めの良いはらっぱ、お風呂…敷地内にちりばめる。
 また、敷地内の人々の居場所だけではなく敷地外の人も呼び込みたい。居住人の経営する店舗、事務所、ギャラリー等を設ける。と同時に機能を持たない屋外ステージや広場もつくり、利用しやすい地にする。
屋根やパネルで「はこ」がつながる。
 人 興味 眺め …流れを外へ上へと向かわせる。

丘・谷で繰り広げられる無数の物語。

・丘では「住まい」中心。
 駅から帰宅する人々、谷で働く人々。頂上には はらっぱ。
 「階段をのぼったら○○さんちの庭につながっている」「この橋を渡ると谷へ行けるんだよね、今日は確か屋外コンサートをやっているらしいから行ってみよう」「丘の頂上にあるはらっぱはとても気持ちがいいなぁ」

・谷では「商い 集い」を中心。
 敷地の外に住んでいる人たちを呼び込む。
 「広場でフリーマーケットをやっているみたい。ちょっと寄ってみよう」「来月の屋外コンサートに呼ばれた!楽器練習しなきゃ」「今日は天気がいいので眺めの良い星空レストランにでも行こうか」「丘に住んでいる○○ちゃんと待ち合わせ。丘の上のはらっぱにしよう」

3.考察

 住まう人の数だけ物語がある。丘の中でのコミュニティ、外部との架け橋となる谷、丘と谷を繋ぐはらっぱ。それぞれの暮らしが交わりあう場所。
 外へと開いた住まい。しかしながら、がんじがらめのコミュニティではなく選択性のある暮らしが創られる。
 こうしてひとつの小さな街が出来上がり、街がゆるく繋がっていく。

4.敷地概要

神奈川県足柄上郡松田町沢尻地区
敷地面積:約9520m2
町には3つの川が流れ、3つの山を望む自然あふれる市街地。対象敷地の南、西側は二方向にそれぞれ酒匂川、川音川が流れ、その合流地点に面している。北、西側には住宅地が広がる。駅より徒歩8分。比較的高地にあるので視界が抜け、眺めの良い住宅地である。
制作物:120個程度の個人の空間+店舗、仕事場、広場等

(図1)スケッチ
(図2)模型写真



2003-2013, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2013-01-23更新