卒業研究要旨(2012年度)

他者同士がつくりだす子育て環境に関する研究 〜子育てひろばからみえること〜

2012年度卒業研究 空間デザイン研究室 森下由梨

1. 研究背景・目的

 近年、晩婚化やそれに伴う出生率の低下が著しく、大きな問題となっている。また、両親や親戚の援助がなく、家に子供と2人きりという孤独な中での子育てに追い込まれるケースも少なくない。子育てひろばとは、子育て親子の集いの場であり、皆で家庭の暮らしや子供の育ちを支援する憩いの場である。そんなひろばで、他者同士がつくりあげる子育てのカタチを探り、今後あるべき子育て環境を明らかにすることをこの研究の目的とする。

2. 調査概要

 同一法人が運営する2ヶ所のひろばを対象として調査を行った(表1)。2012年8月より「学生ボランティア」に参加しながら、スタッフや利用者からの聞き取り調査を行った。各ひろばで観察調査を2日ずつ行い、開館時間内を10分おきに利用者・スタッフの行動や交流の様子を調査用紙に記録した。

3. 結果

 調査から表2のようなひろばの違いが見出された。
親達自身が主体となってひろばをつくり上げている菊名ひろばに対し、どろっぷは、子供の居場所や遊びを中心としたひろばを提供しているという大きな違いがみられた。これらの違いは、ひろばの居心地を大きく左右する中核項目とも言える。

4. 考察とまとめ

 上記結果より、他者同士が関わる子育てひろばにおいて、配慮されるべき要素を以下に挙げる。

(1)ひろばでの役割と存在感の認識

 どろっぷでは、ひろばにいる間中子供と遊んでいる母親が多く、菊名ひろばでは、母親もスタッフと一緒に家事のような仕事を率先して行っていた。ただの利用者ではなく、慣れている仕事から徐々にひろばに馴染み、ひろばの一員だという存在感を感じられる空間となるのが望ましい。

(2)面積と距離感の関係性

 どろっぷは空間は広々としているが、親子が個々にあるいは仲良しグループで固まって遊ぶ傾向がみられた。コンパクトな空間の菊名ひろばでは、親子でない母親と子供の関わりや、母親同士の会話が頻繁にみられた。互いに見える距離感の中で、子供に注視しすぎない、普段の育児から少し離れた生活が送れている。

(3)お互いを認識しあうということ

 どろっぷには毎日新規利用者がやってくる。常に新鮮な空気を味わえる反面、初対面が多く互いに馴染むのが難しい。対して菊名ひろばでは、毎日ほぼ同じ顔ぶれで、お互いを名前で呼び合う様子が頻繁に窺えた。また、初めての利用者もひろば全員で温かく迎え入られていた。利用者同士が認識し合うことでコミュニケーションも豊かになり、居心地の良い空間になるのではないだろうか。

(4)親子の精神的距離感

 どろっぷでの子供と母親の距離は常に近く、親がその場を離れた際に不安から子供が泣く様子がみられた。対して菊名ひろばにいる子供は、母親がいなくても他の母親やスタッフ等と平気で遊んでいた。親との程よい距離感が保たれていると言える。ひろばという空間の中で、自然に他人に懐くこと、環境に慣れることを菊名ひろばに集う子供達は学習している。

(表1)調査対象ひろばの概要
・港北区子育て支援拠点「どろっぷ」
 運営:NPO法人びーのびーの
 面積:1階/205m2(親子の交流スペース)  2階/128m2(事務室・研修会)
 アクセス:大倉山駅から徒歩10分
 活動:エルム通り商店街沿いに位置する。横浜市によるモデル事業の1つとして、横浜市で初めて運営を始める。子供の遊びを中心に、交流・相談・情報提供等子育て家庭の為のサービスを提供している。

・親子のひろばびーのびーの(菊名ひろば)
 運営:NPO法人びーのびーの
 面積:63.37m2
 アクセス:菊名駅西口より徒歩2分
 活動:菊名西口商店街の空き店舗を借りての運営。母親の過ごしやすさに重きを置きながら、家族のような雰囲気の中、ひろばにいる人全員で子供の遊びや育ちを見守っている。

(表2)物理的・運営的・対人的からみたひろばの特徴



2003-2013, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2013-01-23更新