卒業研究要旨(2012年度)

こどもの育ちにとっての環境 〜異年齢保育を実践する保育園に注目して〜

2012年度卒業研究 空間デザイン研究室 中村さやか

1.はじめに

 現在、人との豊かな関わりを育てることを目的としている異年齢保育を実践している園が増え始めている。異年齢保育の及ぼす影響について2カ所の保育園に注目して考察する。

2.調査概要

 表1の調査を表2の2カ所の保育園を対象として行った。2カ所の保育園では、異年齢保育を実践し、コーナー保育、見守り保育を方針にこどもに自ら「選択」していけるようにという理念が共通点としてある。

3.結果

3-1.K保育園

 同年齢同士の関わりよりも異年齢同士の関わりがやや多い(図1)。関わり方は、一緒に遊ぶことや一緒にいることが多い。一緒にいるというのは食事や集まり、散歩での取り組みが大半を占めており、異年齢と関わる機会を多く設けている。先生が5歳児に3歳児の面倒を見てあげるように指導する場面も見られた。その他にも設定された時間以外にも、他クラスと混ざって活動する場面もある。異年齢での関わりの時間を設定しているため、設定されている以外の場面では、異年齢での関わりが均等にある(表3)。
 場面や時間で区切って異年齢の関わる環境を設ける保育が、他者と関わることを促し社会の一員となるためのマナーや選択する力を身につける。また面倒を見ることの高学年の役割や、遊ぶ時には同等になって遊ぶということが、現在少子化により少なくなって来ている兄弟のような関係性を生んでいる。これらの関係性が社会性を育んでいる。

3-2.S保育園

 同年齢同士の関わりが多く、それに比べると異年齢同士の関わりは少ないが、一定の割合で異年齢の関わりもある(図1)。その中で、一緒に遊んでいる、話す等以外に「見ている」という関わりがあることが大きな特徴である。5歳児が遊んでいる様子を4歳児が近くで見て自分で実践する様子が見られた(表3)。
 同じ空間に異年齢が生活することで、低年齢は高年齢を見て自ら学び、高年齢は低年齢に見られていること、教えることから下の年齢を労ることを身につける。これが自ら学んで実践する力、自主性を生んでいる。
 調査から制作、ごっこ、パズルコーナーで一緒にいることが多い。それぞれのコーナーが一日を通して使われていることも見受けられる。自ら生活や様々な遊びを選択することが出来る一つの空間や、自由な時間が多く設定されていることなどの環境が自主性を生んでいると考えられる。

4.まとめ

 どちらも異年齢保育を実践しているが、異年齢の関わりの質に違いが見られた。先生の指導や生活環境、保育方針などが、コミュニケーションを育む社会性だけではなく、自ら考えていく主体性へと繋がっている。異年齢保育には、様々な異年齢の関わり方と質があり、育まれるものも様々なのではないか。

(表1)調査内容
 ・こどもの場面調査:こどものいる場所・行為・園児同士の関わり等を10分おきに記録
 ・先生の追跡調査:各園5人ずつの先生の一日を追跡して記録
 ・こどもの追跡調査:各園3人ずつの5歳児の一日を追跡して記録

(表2)対象地概要
K保育園:3〜5歳児の異年齢保育と共に、保育園と幼稚園が一体の幼保一体保育を実践している。3〜5歳児でひとクラスの5組が園舎を時間や場所で区切り生活している。園舎園庭とも生活や遊びのコーナーを部屋ごとに区切り、自由な時間に選択して活動する。
S保育園:3〜5歳児が同じ一つの空間で過ごす。一つの空間に生活や様々な遊びのコーナーがあり家具で仕切ることにより分けている。こどもからは部屋のように、大人からは部屋全体が見渡せるようになっている。一日を通して自由に各コーナーを選択して活動する。

(表3)異年齢との関わり場面
K保育園:おにごっこを始めようと3・4・5歳皆で話し合っている。逃げる範囲やおにの数などを相談する。遊びの場面では低学年も高学年も同等に遊んでいる。
S保育園:5歳児が遊んでいた箱相撲を次の日になると4歳児が真似して遊ぶ。それを見ていた5歳児が少し手伝う。5歳児を見て4歳児が学んで実践している。

(図1)異年齢の関わり頻度(グラフ)



2003-2013, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2013-01-23更新