卒業研究要旨(2012年度)

新潟市旧黒埼地区に住む高齢者のコミュニケーションからみる生活環境

2012年度卒業研究 空間デザイン研究室 山田絢香

1.はじめに

 高齢者の増加する現代で、サービスの行き届かない高齢者の生活の様子はあまり知られていない。自分の生まれ育った地域では、特に公的サービスに頼らずに高齢者が友人と関わりながら生き生きと生活している。こうした生活を成り立たせる環境に注目したい。

2.調査概要

 新潟県新潟市旧黒埼地区(図1)に住む65歳以上の自立高齢者20人を対象として、2012年9月〜12月にかけて自宅での過ごし方や友人との交流の様子を聞き取り調査した。

3.結果

3-1 個人の生活の特徴

 調査対象者一人ひとりの生活や交流の様子を自宅周りと地域に分けて図2、3のように示した。どの高齢者も自宅や地域の様々な場所を使って多様な交流を行っていることが分かる。

3-2 自宅での交流について

 家族と生活している高齢者が多いが、対象者全てが自宅に友人を招いて交流を行っていた。週に2、3回は友人が訪れ1〜3時間程度滞在している。自宅は、この地域特有の細長い形状である事が多く、玄関先や道路側の空間(店舗や茶の間、仏間)、裏側の空間(勝手口や台所)を使ってその時に応じた様々な交流が行われていた(図2)。家族との関係に配慮しつつも、友人が尋ねやすい空間的特長を持っていると言える。

3-3 近隣での交流について

 どの高齢者も軽く歩いていける範囲の近隣に家を訪ねる友人がおり、週に3回程度友人宅で交流を行っている。互いに訪ねやすい家の構造であることがこうした交流を支えている。自宅近くの畑を介した交流や、店同士のつきあい、昔からの付き合いなど、それぞれの理由で選択した相手との付き合いが継続している。必ずしも地域に縛られず気兼ねなしに友人と深く関われることのできる環境と言える。

3-4 地域での交流について

 高齢者の生活範囲は、徒歩・車を使ってかなり広範囲に広がり、買い物では様々な店舗を活用していた。よく行く店舗では、店主や客同士会話することが多い。また、医者などでも待ち合い中に会話が交わされることが多い。決して深い交流ではないが15〜30分程度の話で幅広い人と気軽に交流が行われていた。

4.まとめ

 以上の結果から、友人を招き入れやすく、一番身近で交流が取れるような自宅の環境、自宅程ではないが交流が取れるような近隣の環境、親しい友人以外に知人や顔見知りと広い交流がとれる地域の環境の3つが黒埼地区の高齢者の生活を取り巻いて存在していることがわかった。この3つの環境が、黒埼地区の高齢者の生活にとって欠かせないものであり、黒埼地域の高齢者の生活に厚みを出している要因となっている。

(図1)新潟県新潟市旧黒埼地区
面積:25.97km2
総人口:25.893人
川の流通のさかんだった頃商業地域として栄えた。間口が広いと税金が多く徴収されたため、間口の狭く奥行きのある家屋が多く建てられた。今でもその特徴を受け継いだ町屋風の住宅が立ち並ぶ。

(図2)自宅の間取り(Oさん83歳女性)
友人との交流に玄関、裏口のどちらも利用し、家の中では仏間や台所に友人を通していた。玄関や裏口付近に仏間等が近いため友人を招き入れやすく、訪問してくる友人や道路を歩いている友人に気づきやすい環境がつくられている。また、友人に声をかけ外で立ち話を15分程し疲れてくると玄関で30分ほど話、さらに話をしようと家の中に招き入れる。

(図3)地域の行動範囲(Oさん83歳女性)
自宅を中心に自宅近隣では、最低30分〜1時間程度のコミュニケーションが取られていて、最大3時間程度、友人宅に留まって話をしている。近隣の友人との自宅の行き来は、最低でも週に3回あり頻繁に行き来している様子が伺えた。地域での交流は商店や病院等で行われ、友人や知り合いと最高30分程度で挨拶をしたり、互いを気遣う様な会話のような簡単なコミュニケーションが取られていた。



2003-2013, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2013-01-23更新