卒業研究要旨(2013年度)

高齢者施設の空間構成が入居者の生活に及ぼす影響 〜ユニット化の価値と課題〜

2013年度卒業研究 空間デザイン研究室 林美早紀

1.はじめに

 本研究は、従来型施設のユニット化改修による効果の検証及び、新設ユニット施設の時間経過によるユニットケア実践の実態把握を目的とする。今後増加するユニット型施設における入居者の生活とケアの課題を明らかにしていく。

2.調査概要

 同一法人の運営するN施設とM施設を対象(表1)に、入居者の生活調査とスタッフの追跡調査を行った(表2)。分析は主に次の2点から行う。
(1)N施設は、昨年従来型からユニット化を目指した改修工事を行っており、改修前後の比較を行う。
(2)M施設は、昨年開設したユニット型施設で、昨年の開設直後と今回の1年経過後との比較を行う。
 各施設の入居者の要介護度を表3に示す。

3. N施設 改修前後の比較

 改修前に比べ、スタッフによる入居者への声かけは増えたが、質のある会話はあまり増えていない(図1)。介護行為の質や、声かけの頻度にはスタッフごとにばらつきがが見られた。入居者の生活は、居室で過ごす時間が増えたほか、居室外では無為が増加した。
 改修により、スタッフのケアや入居者の生活により良い影響が出ることが期待されていた。しかし、スタッフは仕事に追われ、入居者一人ひとりと向き合う時間がなく、個別ケアが行えていない状況は改修前と変わらなかった。一部の軽度の入居者にとっては、入居者同士の関わりが増えるきっかけとなったが、ほとんどの入居者にとっては、改修の効果はあまり見られなかった。

4. M施設 1年経過後の比較

 1年前と比較すると、入居者は食事の時間以外にリビングにいることは少なく、部屋にこもる割合が増えた。スタッフは入居者の居場所である居室やリビングで仕事をすることが少なくなり(図2)、質のある会話も減少した。ほとんど物のない殺風景なリビングの様子には変化が見られなかった。
 1年の経過によって、開設直後に比べ、スタッフ、入居者とも環境に馴染み、ユニットケアがより定着することが期待されていた。しかし、従来的な一斉ケアの傾向が強くなり、小規模な空間でスタッフと入居者が関わりながら個別ケアを行うというユニットケアの理念からはむしろ遠ざかっている印象が強い。

5.これからのユニットケアのあり方

 両施設とも、ユニットケアをするに見合った環境を整えたものの、それだけでは限界があり、スタッフによるケアや環境が変わらない限り、ユニットケアは効果的には行われないことが改めて明らかとなった。ハードとソフト両面から改善が必要であろう。
 ユニット型施設において、ユニットケアを効果的に行っている施設もある。そうした施設から学び、空間構成をうまく活用したケアを実践し、空間とケアをうまく融合させることで、入居者の生活をより豊かなものにしていく必要があるだろう。

(図1)調査対象施設
N施設
延床面積:4,02m2
定員数:100名
平均要介護度:3.91
昨年要介護度:3.93
 平成4年開設の従来型施設。平成24年に改修を行い、ユニットに分けそれぞれリビングや浴室、トイレを増設した。居室は4人部屋。1ユニット16人程度で生活を送っている。

M施設
延床面積:4,114
構造:RC造5階建
定員数:52名
平均要介護度:3.18
昨年要介護度:3.31
 平成24年開設のユニット型施設。10人ごとの独立した小規模生活単位が6ユニットあり、それぞれ個室がリビングを囲む配置となっている。リビングにはキッチンが設けられ、大きさもかなりゆとりがある。各個室には、洗面台とトイレがあり、プライバシーが守られている。



2003-2014, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2014-02-09更新