卒業研究要旨(2013年度)

多様な行為を促す広場空間 〜商業施設に併設される広場の比較・検証〜

2013年度卒業研究 空間デザイン研究室 岩根里奈

1.はじめに

 街には誰もが気軽に訪れられる広場の存在が重要であると感じる。この研究では、利用者の行為や行動から見られる特徴を比較し、空間や環境がもたらす行為の多様性を検証する。そこから今後必要とされる広場空間のあり方を見出すことを目的とする。

2.調査方法

 東京近郊の商業施設に併設される3カ所の広場を対象とし、利用状況を調査した(表1)。調査は平日と休日のそれぞれ1日ずつ行い、10時〜19時の間1時間ごとに利用者の属性や行為を記録した。

3.広場の使われ方の特徴

 いずれも1日のべ200名前後の利用者がカウントされた。商業施設の休憩所としての使われ方だけでなく、この場所に来ることを目的として利用している人も多く、自由に、気軽に訪れて過ごせる広場として使用されていた。
 経堂では子連れが多いのに対し、ヴィータと橋本では若年〜高年まで幅広い年齢層の人に使われていた。ただし、訪れ方としてはヴィータでは友人同士、橋本では一人で来ている人が多い。
 使われ方を見ると、経堂では主な行為を会話・飲食・子守りが占め、滞在時間も他の2つの広場に比べて平均的に短い。ヴィータでは平日休日共に勉強が多く、また複数名で訪れて、会話や工作を楽しむグループもいた。橋本では平日は1人でボーっとしたり、読書をする人が多いのに対し、休日では友人同士での会話をする人も増える。
 結果から、経堂ではデザインされた空間の中で、子連れの交流の場として利用され、ヴィータではオープンな空間の中で作業や会話などの限られた行為が見られた。それに対し橋本では、多様な目的で、あるいは目的を持たず訪れているという差が見られた。

4.広場の環境と使われ方

 広場の環境としては、経堂とヴィータでは比較的均一に席が設けらている。
 それに対し橋本は、メリハリある空間づくりがなされており、多様な使われ方に対応していた。開放感ある内側の空間では友人同士で訪れ、飲食をとったり、会話を楽しむ姿が見られ、フレキシブルな使われ方がされていた。外側の閑静な空間では、1人でボーっとする人や、読書を楽しむ人が多く見られ、各々がプライベート空間を作り出していた。内と外をつなぐ中間領域では待ち合わせや、ふらっと訪れてひと休憩できる空間となっていた。これらの空間を植栽で間接的に仕切ったり、段差を用いることで目線の変化も生まれ、多様な人の居場所をつくり、多様な行為が促されているように思われる。このような複合的な空間が一つの広場に存在することで、直接的・間接的に人との関わりがもてるような場にもなっている。

5.おわりに

 橋本のような、誰もが気軽に訪れられ、多様な行為が生まれる広場が身近にあることは、街も、人々の心も豊かなものにしていくのではないだろうか。

(表1)調査対象施設の概要
経堂コルティ
オープン日:2011.04.26
立地:東京都世田谷区
広場の特徴:空中庭園をイメージしてデザインされ、屋外空間と半屋内空間がフラットに繋がっている。
規則:飲食可/禁煙
調査日:10/28(月).11/9(土)
平日:219名/休日:161名

ヴィータ・コミューネ
オープン日: 2011.09.23
立地:東京都多摩市
広場の特徴: オープンな空間の中に机と椅子が一定に並べてある。
規則:飲食可/禁煙/cafe open時にcafe席での飲食以外の行為は不可
調査日:11/11(月).11/16(土)
平日:176名/休日:221名

橋本インナーガーデン
オープン日:2001.09
立地:神奈川県相模原市
広場の特徴:緑・光が配慮され、ベンチの配置などデザインされた広場。座る場所によって異なる空間が感じられる。
規則:飲食可/禁煙/勉強不可
調査日:10/15(火).11/4(月)祝日
平日:196名/休日:233名

(図1)利用者の属性(グラフ)
(図2)行為別割合(グラフ)



2003-2014, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2014-02-09更新