卒業研究要旨(2013年度)

保育園の室内環境からみる異年齢の関わり

2013年度卒業研究 空間デザイン研究室 清野真央

1.はじめに

 異年齢集団で遊ぶ機会が減少したこどものため、異年齢保育を実施している園が増えている。こどもが食・寝・遊を長時間過ごす室内環境に注目し、異年齢の関わりと環境との関係を探る。またその関わりの質が、こどもの育ちに与える影響を考察する。

2.調査方法

 表1の調査を異年齢保育を実施している2つの園(表2)を対象として行った。いずれの園も遊びのコーナーをつくり込み、こどもの主体性を育てようとする見守り保育・コーナー保育の方針という共通点がある。

3.結果

3-1.関わる場所と関わり方

 自由保育の時間帯で、こども同士の関わりのある場面を抽出した(表3)。異年齢で関わる場面は全体に、S園よりもK園の方が多くみられた。コーナー別にみるとK園ではどの場所でも異年齢の関わりがあるのに対して、S園では異年齢の関わりが発生する場所が限定されていた(図1)。またコーナー(以下C)によって異年齢の場面に違いが見れた。
 K園では場所に関わらず異年齢が一つの集団として遊ぶ様子が多く、そこに先生が交わる場面も多く見られた。S園では、フレキシブルCやピースCなど遊びが限定されないコーナーでの異年齢が多く、そこでは年上が年下のお世話をしたり、年上の遊んでいるところを年下が見て真似る、年上が年下の喧嘩の仲裁役をするなどの関わりが見られた。

3-2.異年齢の関わり方の違い

 異年齢での関わり方の質の違いに注目し、「先生と交わる」「一緒にいる」「見つめる」「一緒に遊ぶ」「お世話する」の5つに分けて分析した(図2)。
 K園は「先生を交える」「一緒にいる」「一緒に遊ぶ」が多く、異年齢が同等に関わりながら遊ぶ横の関係がほとんどであった。これに対してS園では「見つめる」「お世話する」が多くみられ、これは年上が年下に教ったり、年下が年上をみて学ぶという縦の関係と言える。
 設定保育の場面において、K園では先生が中心となって、異年齢を同等に扱うような方法をとるのに対し、S園では、こどもの主体性を重視し、年上には自覚や責任をもたせ、年下には学ぶ姿勢を身につけさせることを重視していた。こうした違いが自由保育の場面にも影響を及ぼしてる可能性がある。

4.まとめ

 どちらも異年齢保育を実践しているが、先生との関わりや設定保育、遊び環境によって、こども同士の関わり方の質に違いがあらわれていた。横の関係は、どの場所にも適応し立場を超えて多様な人と関われる能力が養われる。一方で縦の関係は、各自の立場の違いをふまえて、自ら教えたり学んだりするという主体性が養われている。この異年齢で関わることには、相手を思いやる心が育まれ、他者と上手く関わることを充実させてくれると考えられる。

(表1)調査内容
子ども場面調査:子どもいる場所・行為・関わり方等を10分おきに記録
子ども追跡調査:園ごとに各年齢1人ずつ子どもの1日を追跡して記録
ヒアリング調査:園長先生や担任の先生に保育方針や子ども達の様子を聞き取り

(表2)調査対象園の概要
K保育園
調査日:2013/11/1.6.7.8
対象児童:3〜5歳 合計123人
<特徴>異年齢で構成されたクラスが3つあり、3フロアに分かれ生活するが、自由時間にクラスの隔たりはない。
<食,寝,遊>時間によって変化する。食C寝C→遊C
<お当番>朝の会で年齢問わず、やりたい子の中から決める。
<いただきますの合図>机ごとに言いたい子が合図し食べる。

S保育園
調査日:2013/10/24.29.30.31
対象児童:3〜5歳 合計60人
<特徴>3〜5歳が1つの空間で過ごす。空間は可動式の家具で仕切られコーナが分けられている。
<食,寝,遊>それぞれ分離した場所にある。
<お当番>異年齢で構成されているお当番と、5歳のみので構成されたお当番がある。
<いただきますの合図>お当番の合図で全員が食べる。

(表3)同年齢と異年齢
(図1)異年齢と同年齢の場所(グラフ)
(図2)異年齢の関わり方(グラフ)



2003-2014, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2014-02-09更新