卒業研究要旨(2013年度)

終わりと始まりのまち 〜葬祭場の見える日常〜

2013年度卒業研究 空間デザイン研究室 常石和沙

1.はじめに

 かつて地域コミュニティの中で地域住民の手によって行われてきた葬儀は、都市化が進んだ現代、葬祭業者によって行われるようになった。葬祭場は僻地に作られ、高い塀で隠された。死は生活から隔離され、遠いものとなった。失って初めて気付く事がある。死から学ぶ事は、多くある。死はもっと、身近にあるべきではないのか。
 昨今、葬儀は簡素化の傾向にある。葬儀には、故人の死を現実のこととして認識し、受け止める役割がある。他にも、様々な役割がある。自分の知らない故人の姿を知る機会、感謝を形にする機会、集う機会…。悲しい出来事であると同時に、人生の転機でもある。“終わり”だけでなく、何かが“始まる”場所であるべきではないだろうか。
 広い敷地の中に、葬祭場を中心とした死のまちを作る。様々な人が行き交い、出会い、学び、死から何かが生まれていく、そんなまちを目指す。

2.敷地概要

相模原市営斎場を含む一帯
所在地:神奈川県相模原市南区古淵五丁目
敷地面積:約3万6千m2
 住宅と林に挟まれた相模原市営斎場。木々や生け垣に覆われ、林の一部のようになり、行き止まりを作っている。市が行った市営斎場に関するアンケートでは、市営斎場を知らないとの意見が多く見られた。住宅地に近いのに、隔離された、町の一部でない空間。この場所に、生と死の町を作りたい。

3.計画提案

 葬祭がまちの中に、日常の中に組み込まれることで、死は身近なものになる。死が身近になることで、生きる事を考える。多くの人に人生を考えるきっかけ、命というものを考えるきっかけを与え、新たな出会いを促し、新たな日々が始まっていくような、終わりと始まりのまちを作る。

(1)垣間見えるみち(商店街+住宅)

 円を描く道が、流れるように人を誘う。商店街や、住宅の隙間から、葬儀が垣間見える。住宅部分は、共通の庭を持ち、そこで住民同士が出会い、関わる。

(2)感じるみち(斎場+飲食店)

 くねくねと曲がった道が、先の見えない気持ちを表現する。このみちを抜けると、人の集まる開けた広場へと出る事が出来る。待合室は大きな窓が開いているが、もう一枚壁を立て適度な距離を保つと共に、その隙間が居場所となる。みちを照らす役割も持つ光の漏れるホール、他の家と近い距離で葬儀を行う重なるホール、柱のホール、見上げると葬儀のシルエットの見える円のホール、広場のホールなど、様々なホールを作り、従来の葬儀から自由な葬儀まで、選択できるようにした。このみちを歩く地域の人は、様々な葬儀を目にし、感じる。

(3)考えるみち(火葬+図書分館)

 迫り出した屋根が、明るい場所と暗い場所をつくる。炉前ホールは屋外空間で、川を挟んだ道を歩く人、また図書分館の中やその脇の隙間からも目にすることができる。図書分館の中には収骨室の壁がはみ出し、故人からの学びを感じさせる。

(4)命のひろば(児童館+グラウンド+桜墓地+大ホール)

 生命力溢れる子どもたちと、それを見守る故人の眠る桜の木。桜墓地の隙間から大きなホールが見える。墓地の休憩所は十字の形をしており、火葬、斎場、グラウンド、住宅地という死と生の場所をそれぞれ見ることができる。

(5)集うひろば(図書本館+広場)

 図書本館は4方向の人を誘う形をしている。広場と図書館に人が集まり、知識や感性、悲しみや喜びなどの感情がこの場所に集まる。

(6)出会うみち(斎場+教室+住宅)

 このみちはまっすぐ伸びる。様々なみちを抜け、感じ考え学んだ人びとは、迷わず、新しい日々をはじめるために日常へと帰る。もう少し迷いたいときは教室の前や横の隙間に、溜まることができる。脇の道に入り飲食店のあるみちに戻ることもできる。時折、葬儀が垣間見える。このみちにある教室で、何かを教え、何かを学ぶ。新しく出会い、学び、何かが始まっていく。

(図1)模型写真



2003-2014, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2014-02-09更新