卒業研究要旨(2013年度)

がいや 〜みかんと貝の美術館〜

2013年度卒業研究 空間デザイン研究室 藥師寺紗栄

1.研究背景・目的

 愛媛県宇和島市とは、宇和海に接した西南部に位置し、西側には入り江と半島が複雑に交錯した典型的なリアス式海岸が広がっている。他の三方は山に囲まれており、みかん畑や段々畑が広がっている。また、一次産業が盛んであることから、みかんやハマチの養殖、真珠などが名産である。歴史も古く、江戸時代には伊達藩の分家である宇和島藩として栄えていた。農林水産の町ということで、海の幸、山の幸も豊富であり、温暖な気候と温厚な地域性である。
 このような豊かな資源や特性、気候、そして温厚な地域性である宇和島市だが、愛媛県の南方にあることから、なかなか外から人がくることがない。
 宇和島市の良さを知ってもらうためにはやはり、一度その土地に来てもらうことが一番良いと考える。「がいや」という言葉は宇和島市の方言で、「ものすごい」という意味である。外から人がきていただいた方々が「がいや」という驚きの言葉を言ってもらえるような場所をつくり、宇和島市への更なる興味につなげる空間を提案する。

2.敷地概要・周辺環境

対象敷地:旧宇和島市立石応(こくぼ)小学校跡地(旧市立石応小学校)
敷地面積:約8726m2
 旧市立石応小学校は、去年4月に廃校になった。宇和島市繁華街から車で10分の場所にある。敷地の正面は宇和海に面したリアス式海岸であり、東側にはみかん畑と段々畑が広がっている。また、海の方向を見ると有人島の九島や小さな無人島が見える。石応二区には、真珠の養殖を行う石応漁港があり、昔から、みかんと貝と共に生活してきている地域である。

3.計画

(1)コンセプト

 旧市立石応小学校の敷地は、宇和島市の特徴あふれる敷地であり、地域の方と密接につながっている場所である。この敷地と「みかん」「貝」「人とみかん」「石応とみかんと貝」「山」「海」の要素をめぐることで、宇和島市への興味につながり、それが1本の木になる。1本の木になった好奇心は石応の地域を活気づけ、そこに住む人々や訪れた人が、花開くように賑わう。また、好奇心は石応だけでなく宇和島市全体に広がり、違う場所へ行きたい、また宇和島市へ訪れたいという気持ちが芽生えさせ、宇和島市全体も花が開くように活気づいていく。

(2)全体計画

 地域の生活に欠かせないみかんと貝。そこで、旧石応小学校の校舎と校庭、正面に広がる海、奥へと広がる山を新しい建築物で繋げることで、旧市立石応小学校と地域の生活から、宇和島市への興味に繋げる空間構成を主にする。

(3)景色

 正面の道路や海からは、敷地の中の校庭や山をあまり見せないように壁を設ける。しかし、奥に何があるのか興味を持たせるためにすべてを閉ざすのでなく、敷地内を所々見せる仕組みを設けることで奥へ導かれる。敷地内に入ると奥へと広がるみかん畑が広がっており、四季折々の山の風景を感じることができ、季節ごとに行きたくなる。多方向に伸びる道が広がることで、みかん畑を様々な場所から見ることができ、歩いているうちに美術館の入り口や、みかん取り体験の場所に導かれる。また、建物内に入るか山に登らないかぎり、海を望むことができない。これは、海と山を別けることでそれぞれの良さを感じることができ、一カ所だけ設けた山から望むみかん畑と海の景色をより一層感じることができる。校庭からの景色は木にあふれた景色が広がるが、山から見た敷地は、建築物と校庭の庭がみかんの花が咲いた木に見える。

(4)5つの空間と校舎を繋げる

 校舎にある既存の設備を使い、新しい建築物と繋げることで、旧市立石応小学校が新しく生まれ変わる。また、校舎には「貝」をメインにおき、新しい空間に「みかん」「人とみかん」「石応とみかんと貝」「山」「海」をメインとした空間を設ける。この空間を上に行きながら歩くうちに、石応という地域を知るだけでなく、宇和島市への興味にもつながることができる。

(表1)対象敷地



2003-2014, Space Design Laboratory, JISSEN Univ.
Status: 2014-02-09更新